梅田 正己/ジャーナリスト)/著書『「非戦の国」が崩れゆく』(高文研)他)/「米軍再編」は単独で進行しているのではない/06/04/04

 


「米軍再編」は単独で進行しているのではない
「自衛隊再編」も同時進行している

 梅田 正己(編集者。著書『「非戦の国」が崩れゆく』高文研ほか)

 

「米軍再編」による在日米軍と基地の再配置をめぐって、基地負担を強いられる 地元と政府とのせめぎあいが続いている。日米両政府の最終合意は3月末とされ ていたが、否応なく4月以降にずれ込んだ。 米軍の世界的な再編は、対テロ戦争や地域紛争への介入を戦略の基本にすえ、海外に駐留する米軍兵力を削減する一方、ハイテク装備や兵員の高速輸送などによ って軍事行動の即応性・効率性を高めようというものだ。
そのためには、同盟国の協力が欠かせない。わけても、中東から東北アジアにいたる「不安定の弧」をその東端からにらむ位置にあるアジア最大の同盟国・日本 の協力が何より必要だ。
その必要から、現在、北海道から沖縄までにいたる軍事基地の再配置がすすめられている。



以上の経過から見ると、主役は米国で、日本(政府)はもっぱら受け身で動いて いるかのように見える。しかし、本当にそうだろうか。
少し振り返ってみると、日本もまた米国と同じ軍事戦略のもとに、主体的かつ積 極的に動いてきたことが分かる。しかもそれは、私たち国民の目の前で堂々とす すめられてきたのだ。


■小泉首相の私的諮問機関「安保・防衛懇」の報告書が語るもの

 

一昨年、04年10月、首相の私的諮問機関である「安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長=荒木浩・東京電力顧問)は、「未来への安全保障・防衛力ビジョン」と題する報告書を提出した。その中から抜粋する。

「中東から北東アジアにかけての『不安定の弧』の地域における、テロや国際犯罪などさまざまな脅威の発生を防ぐ意味からも、日米の同盟関係を基にした幅広い協力は重要である」
「米国の世界戦略の変革の中で、積極的に日米の戦略的な対話を深めることによって、両国の役割分担を明確にしつつ、より効果的な日米協力の枠組みを形成すべきである」

>この懇談会が米国政府とまったく同じ立場に立っていることが、これだけでもわかる。またこんな文章もある。
> 「現在推進されているグローバルな米軍の変革については、日米間の安全保障関係全般に関する幅広い包括的な戦略対話の重要な契機と捉え、抑止力としての米軍の機能をも踏まえつつ、積極的に協議をすすめるべきである」「さらに、こうした協議の成果を反映する形で、時代に適合した新たな『日米安 保共同宣言』や新たな『日米防衛協力のための指針』(引用者注:ガイドライン) を策定すべきである」
橋本首相とクリントン大統領によって「日米安全保障共同宣言」が出されたのは 1996年、「新ガイドライン」が結ばれたのは97年だった。それからまだ( 04年の時点で)7、8年しかたってはいないが、状況は大きく変わったから、 新たな共同宣言、新々ガイドラインが必要だというのだ。
そして、具体的な戦力構成としては、「陸上防衛力」では対テロ戦争や地域紛争 をにらんで「烈度の低い多様な軍事行動への即応態勢の構築に重点を移す」「各 種事態の初動における即応展開や、重要施設防護などに柔軟な運用が可能な普通 科(注:歩兵科)部隊に要員を大胆にシフトする」と提言していた。(写真下自衛隊普通連隊)

 


今回の日本における「米軍再編」の一つの焦点は、キャンプ座間への米陸軍第一 軍団司令部と、新たに編制する陸上自衛隊の「中央即応集団」司令部の設置だっ た。その「中央即応集団」の新編がここに提案されているのだ。
なおこの懇談会のメンバー10人の中には、財界人や元高級官僚、元統合幕僚会 議議長らとともに4人の学者が含まれていたが、その一人が五百旗頭(いおきべ) 真・神戸大教授だった。五百旗頭教授が朝日の社機で辺野古の海を上空から「視 察」した後、沖縄の人々に対し「(基地について)思いつめることから卒業して ほしい」と述べたことを、前に私はこのコラムで紹介した。
1年前にこういう報告書を出した懇談会のメンバーだった以上、辺野古の新米軍 基地についてこの人物がどんな「視察記事」を書くかは、初めから分かっていた はずである。

 

■防衛庁「防衛力の在り方検討会議」報告が語ったもの

首相の私的諮問機関が報告書を提出して2カ月後の04年12月2日、防衛庁内 に01年から設置されていた「防衛力の在り方検討会議」が報告を発表した。
その中の米国や国際機関との協力について述べた中に、こんな1節がある。 「今後の防衛力は、果たすべき役割について、例えば、新たな脅威や多様な事態 への対応に際しての我が国の対処能力の保持の在り方を含めて、日米間における 適切な役割分担を明らかにすることにより、日米安保体制の実効性を高めることが重要である」
先の懇談会と、まったく同じ立場にあることがわかる。
そして「各自衛隊の具体的な体制」の項では、「国際活動に主体的かつ積極的に取り組むため、人的支援活動の中核である陸自において、一定規模の部隊を迅速 に派遣できる体制を整備する」として、5000人規模の「中央即応集団・教育専門部隊」の新設を提案する。

 

 

「今後は中央即応集団司令部に国際活動の計画・訓練・指揮を一元的に担任させ るとともに、派遣要員の平素の訓練やPKO対応装備品の管理、ノウハウの蓄積 等を行う国際活動教育隊(仮称)を創設する」つづいて、このわずか1週間後の12月10日、「新防衛計画の大綱」と「中期 防衛力整備計画」が閣議決定される。

(写真左教育隊 の訓練)

 

■「新防衛大綱」「中期防」に示された新たな自衛隊像

「防衛計画の大綱」(防衛大綱)とは、向こう10年間の安全保障政策の基本指 針と防衛力のあり方を示すもの、「中期防衛力の整備計画」(中期防)は、その防衛大綱にもとづいて向こう5年間(この場合は05年から09年まで)の自衛隊の組織編成や兵器ほか装備の導入を決めたものである。したがって、もはや報 告や提言ではなく、政策として予算の裏付けのある実行力をもつ。
新防衛大綱の「我が国の安全保障の基本方針」の項には、次のように書かれてい る。今後の我が国の防衛力については、即応性、機動性、柔軟性及び多目的性を備 え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度の技術力と情報能力に支えられた、多機能で弾力的な実効性のあるものとする」
これを受け、「防衛力の在り方」として掲げられた「別表」の中に、「中央即応集団」の設置が示されたのである。

新中期防では、これがさらに具体化される。「防衛庁・自衛隊の組織の見直し」の項では、次のように述べられている。
「陸上自衛隊については、戦車及び主要特科(注:特科とは砲兵のこと)装備の 縮減を図りつつ……

5個の師団、1個の団及び2個の混成団について改編を実施 し……」「また、機動運用部隊や専門部隊を一元的に管理・運用する中央即応集 団を新編する」

こうして新たに編制する「中央即応集団」の司令部を、米本土から移ってくる米陸軍第一軍団司令部を改編した新司令部とともにキャンプ座間に設置することに、 日米両政府は合意したのである(昨年10月の「中間報告」)。

またこの中期防では、航空自衛隊の中に、海外出動する隊員の長距離輸送のため の「空中給油・輸送部隊の新設」も掲げられたのである。(右写真自衛隊特科隊)

■進行する日米軍事同盟の再構築

 

以上、見てきたように、この数年、自衛隊は大きく方向を転換してきた。その方向は、「米軍再編」がめざしている方向と重なる。日米両政府――小泉政権とブッシュ政権との間に矛盾はない。矛盾は、日本政府と新たな基地負担を強いられる地元自治体と住民との間にある。
だから政府は、米国政府の意向をも背にしながら、地元の説得と懐柔に躍起にな っているのだ。
これが、今回の「米軍再編」に連動した日本の軍事基地再編の基本構図である。そしてそれが、今後の「この国のゆくえ」の根幹にかかわることは言うまでもな い。
しかしそんな重大な問題について、国会ではまったく論議らしい論議はされてい ない。
メディアもまた、その時々の一過性の報道に終始し、全体の構図を伝えていない。 こうして、ほとんどの国民には何ごとも知らされないまま、日米安保条約の実質 的改定がすすみ、米軍と自衛隊の一体化を基盤とする強固な日米軍事同盟の再構
築が着々と進行している。
(写真自衛隊ホームページより)