梅田正己/編集者/続 ・ 普天間=グアム移転問

朝日は何を考えているのか?10/04/05

続 ・ 普天間=グアム移転問題

 

朝日は何を考えているのか?

 

 

 

 

  東京新聞のベテラン記者の記事をこのコラムで批判したのはついこの前、 こんどは朝日新聞だ。

 

  4月4日、 日曜の第1面。 こんな大見出し。

 

    基地膨張  グアム反発

 

    沖縄米海兵隊の移転先  経済刺激のはずが…負担増

 

  見出しだけでは分からないのはいいとして、 この記事を読んでいったいどれほどの人がその内容を理解できただろうか。

 

  殆んどの人が何の話か分からなかったのではないか。

 

  いちばん肝心なことが書かれていないからだ。 次のことである。

 

  ①  米海軍省は08年、 グアムを西太平洋の戦略軍事拠点とすることを決め、 「グアム統合マスタープラン」 を確定した。

 

  ②  そのプランでは、 既存のアプラ軍港とアンダーセン空軍基地を整備するとともに、 8,600人の海兵隊と600人の陸軍ミサイル防衛隊を配備することとし、 そのための訓練 ・ 演習基地を建設することになっている。

 

  ③  米海軍省は09年11月、 この統合計画を実施するために 「環境影響評価案 (アセスメント案)」 を作成、 グアム現地で発表し、 公聴会を開くとともにインターネットで公表した (現地住民からの意見集約は2月半ばに締め切られた)。

 

  以上の経過があって、 米軍の具体的な統合計画を知ったグアムの人たちの中から反発の声が上がった――ということなのだ。

 

  この 「環境影響評価案」 に対しては、 朝日の記事にもあったが、 ワシントンの環境保護庁からも強い異議申し立てが出ている。公衆衛生、 飲料水、 廃棄物処理、 サンゴ礁、 他の海産物に関するアセスおよび対策案が不十分だという理由だ (吉田健正氏から)。

 

  しかし、 グアム統合計画がアジア太平洋での米軍再編の基軸であることに変わりはない。

 

  そしてその統合計画のハシラとなっているのが、 沖縄の海兵隊の3分の2をグアムへ移転させるということなのだ。

 

  そのための施設建設のための建築業者の入札は現在も着々と進行している。

 

  今回の記事は、 そうした肝心なことはまったく報道せずに、 いきなり 「基地膨張  グアム反発」 だ。 しかも1面トップに。

 

  今や普天間問題は鳩山政権の死命を決する問題となった。

 

  その普天間問題と、 在沖海兵隊の主力をグアムへ移すこの統合計画とは、 切っても切れぬ関係にある。

 

  にもかかわらず、 朝日の記事はそのことにはふれぬまま、 ただグアムで反発が出ている、 ということだけを報じている。

 

  朝日は何を考えているのだろうか?

 

  この記事で、 グアムのことは報道しましたよ、 と言うつもりなのだろうか? 誰に対して???

 

  毎日もまた、 何を考えている?

 

  朝日だけではない。毎日の4月1日、 1面トップにも、 どぎつい、 しかしとても本当とは思えない記事が載った。こんな見出しだ。

 

      なぜ沖縄に――米軍高官の 「本音」 「海兵隊  北朝鮮核が狙い」

 

  この 「米軍高官」 というのは、 来日した米太平洋海兵隊 (司令部ハワイ) のキース ・ スタルダー司令官のことだ。

 

  2月17日、 赤坂の米国大使館で、 この司令官を囲んで日本の防衛関係者が出席しての会合がひそかに開かれたという。

 

  その席上、 司令官の “公式的” な話にいらだった日本側出席者の一人が、 そんな話は分かっている、 沖縄の海兵隊がなぜ必要なのか、 本当のところを聞かせてほしい、 と言ったところ、 司令官は 「しばし考えたあと」 こう言ったというのだ。

 

  「実は沖縄の海兵隊の対象は北朝鮮だ。もはや南北の衝突より金正日体制の崩壊の可能性の方が高い。その時、 北朝鮮の核兵器を速やかに除去するのが最重要任務だ」

 

  こんな話、 まともに聞けるだろうか。

 

  海兵隊は、 戦時に突入した際、 まっ先に敵前に上陸、 あるいは敵地に降下して橋頭堡を築くのを任務とする部隊だ。 それで、 「なぐり込み部隊」 ともいわれる。

 

  金正日体制が崩壊したとしたら、 北朝鮮は政治的大混乱に陥るだろう。

 

  核兵器は (もし仮に存在するとしたら) 厳重に秘匿されているはずだ。

 

  では、 沖縄にいる海兵隊が、 北朝鮮に飛んで、 秘匿された核兵器を見つけ出し、 除去するのに、 適任と考えられるだろうか。

 

  普通に考えて、 こういう任務を与えられているのは、 謀略部隊ともいわれる特殊部隊ではないか?

 

  この特殊部隊は沖縄のトリイ ・ ステーションにも駐留していて、 高高度パラシュート降下訓練などをやっている。

 

  韓国にはまた、 米国陸軍1万7千人が駐留している。 そこには当然、 特殊部隊が含まれているだろう。

 

  そして韓国自身も、 56万人の陸軍をかかえている。 その中には映画にも描かれたような厳しい訓練を積んだ特殊部隊が少なからず存在するだろう。

 

  北朝鮮崩壊の混乱の中、 秘匿された核兵器を探し出すには潜入と同時に諜報活動が必要とされるだろう。 その任務部隊として、 顔かたちも同じなら言葉も同じ韓国の特殊部隊がちゃんと存在するのに、 顔かたちも違い言葉も通じない米国海兵隊が、 なんでわざわざ沖縄から飛んでゆくのだろうか?

 

  軍事の素人でも、 少し落ち着いて考えればわかることではないか。

 

  海兵隊の主力はグアムへ移すのに、 なお沖縄にも基地を確保しておきたい米軍は、 いろいろとその 「理由」 を並べるだろう。

 

  「北朝鮮の核が狙い」 もその苦しまぎれの 「理由」 の一つにちがいない。

 

  それなのに、 米軍の司令官が言ったからといって、 どう考えてもウソ臭い 「理由」 を、 日本の大新聞が、 いわば口写しで、 1面トップで伝えていいのか?

 

  それでも伝える意味があると言うなら、 いまここで私が挙げたような疑問もあわせて提示し、 それについての取材結果を並べて載せるべきではないか? (その結果は読者が判断する。)

 

  しかしそうするどころか、 この記事は、 1面の終わりの方で、 昨年私がその傲慢を批判したマイケル ・ グリーンの言葉を載せている。もちろん先の司令官の話を 「保証」 する発言である。

 

  「海兵隊は北朝鮮崩壊のシナリオでは大量破壊兵器を見つけ出す任務がある…」

 

  最後に、 もう一度、 スタルダー司令官の言葉を見てみよう。

 

  司令官は、 沖縄海兵隊のウソ臭い任務を語るのに、 「南北の衝突より金正日体制の崩壊の可能性の方が高い」 と語っている。

 

  米軍の高官が、 いまや北朝鮮が攻めて来るなどということより、 金正日体制の崩壊の可能性の方が高い、 と 「本音」 で語っているのである。

 

  こちらの方が、 よほど 「ニュース」 ではないか?