梅田正己/編集者/普天間問題で鳩山つぶしにかかった大新聞09/12/18

 

 

普天間問題で鳩山つぶしにかかった大新聞

 

梅田  正己(書籍編集者)

 

◆読売、 毎日、 日経の論調

 

  12月15日、 鳩山政権が普天間問題の決着を先送りしたことに対する全国紙の対応は、 まるで鳩山政権を包囲して一斉攻撃をかけたかのような感じだった。 最も多くの砲撃を加えたのは、 もちろん読売だ。

 

  社説の書き出しはこうだった。

 

  「鳩山首相は、 米軍普天間飛行場の返還を頓挫させたことで、 歴史に名を残すのではないか」

 

と、 皮肉たっぷりに書いた上で、 こう斬って捨てる。

 

  「民主、 社民、 国民新の3党連立政権を維持するため、 国益より党益を優先した結論だ。 ……長年積み上げてきた日米の信頼関係を崩壊させかねない」

 

  読売はほかに「検証普天間」の記事を〈1〉~〈4〉載せている。 そのタイトルを見るだけで内容は想像がつくだろう。

  〈1〉 問題こじらせた首相

  〈2〉 首相の「悪い癖」

  〈3〉 日米悪化懸念にも動じず

  〈4〉 怒る米国

 

  毎日の社説も、 真正面から非難を浴びせる。

 

  「鳩山由紀夫首相は……移設先はおろか、 結論を出す時期さえ決められなかった。 事態は3ヵ月前とまったく変わっていない。 『政府方針』 と言うのも恥ずかしい肩すかしである」

 

  「期限もつけない連立内の協議では、 米側も言葉がないであろう」

 

  「こうした事態を招いた原因は、 首相のリーダーシップと、 首相官邸の調整能力の欠如にある。 首相はそのことを深く自覚すべきである」

 

  日経の社説は、 上の2紙ほど激しくはないが、 それでもこう書き出している。

 

  「……移設先決定の先送りは、 日米同盟をめぐる現在の危機的状況をさらに深める結果になる。 『日米基軸』 との言葉とは裏腹に、 鳩山政権が行動で示す日米同盟の空洞化と対中傾斜に対し、 懸念を覚える」

 

◆朝日社説はワシントンの代理人?

 

  読売のライバル紙である(あった?)朝日も変わらない。

 

  社説のタイトルは 「鳩山外交に募る不安」 とおとなしいが、 中身はやはり正面からの糾問調である。

 

  「決着を来年に先送りし、 連立3党で移設先を再検討するという。 しかし、 これを方針と呼べるだろうか」

 

  「傷ついた日米当局間の信頼をどう回復するつもりなのか」

 

  通常の社説は2本立てだが、 重要な問題については1本立てになる。 この社説も1本立てである。 長い社説の結論は、 結局こういうことだ。

 

  「鳩山首相に求めたいのは、 普天間の移設をめぐるもつれを、 日米関係そのものが揺らぐような問題にさせないことだ。 出発点は同盟の重要性を新政権として再確認することにある」

 

  要するに、 米国の機嫌を損じるな、 約束を守って言うことを聞け、 ということなのだ。 これを書いた論説委員はもちろん東京で書いたのだろうが、 なんだかワシントンで書いて送られてきたような気がする。

 

◆東京新聞と沖縄の2紙の社説

 

  こうした鳩山攻撃の論調がひろがる中で、 東京新聞の社説だけは違っていた。 書き出しはこうだ。

 

  「……移設問題の決着は越年が決まった。 現行計画通りに県内移設する選択肢は残しているが、 民主党が衆院選で訴えた県外 ・ 国外移設の検討に軸足を移すべきだ」

 

  本文でもくり返し強調する。

 

  「日本国民、 特に沖縄県民が先の衆院選で民主党に託した県外 ・ 国外移設の検討に向けて本腰を入れるときだ。 決着の越年が、 県内移設やむなしという雰囲気づくりのための単なる時間稼ぎに終わったら、 政治への信頼を損ねる」

 

  先に紹介した全国紙の社説の筆者が、 沖縄県民のことなど眼中になく――と言うのが言いすぎだったら、 頭の隅のほうにしかなかったのに対し、 この東京新聞社説の筆者の頭の中では沖縄県民が中央に近いところにすわっていたことがわかる。

 

  15日の3党首脳の協議を、 沖縄では恐らく息を飲む思いで見守っていたに違いない。 予定通り辺野古に基地が造られれば、 航空基地 ・ 軍港 ・ 弾薬庫 ・ 演習場が一体となった海兵隊の根拠地が出現することになり、 沖縄の基地の存在は半永久的になるにちがいないからだ。

 

  だからこそ、 現地では、 実に2000日をこえる座り込みが、 雨の日も風の日も絶えることなく続けられている。

 

  では、 沖縄現地の2紙の社説は、 どう書いているだろうか。

 

  沖縄タイムスはまずこう述べる。

 

  「……基地問題を根本的に見直す時間が得られたと受け止めたい。 結論を急ぐと辺野古案に行き着くしかないからだ」

 

  「……県内でも普天間の県外、 国外移転の要求が高まっていることを受け止めた対応として歓迎する」

 

  琉球新報もまずこのように書く。

 

  「仕切り直しを『移設の頓挫』と批判する向きもある。 だが、 振り出しに戻すことが必ずしもマイナスとは限らない。 むしろこの問題は肯定的にとらえ、 国民にとってベストの策を練りだす出発点と考えたい」

 

  全国紙の社説は、 結論が先送りされたことに苛立ち、 あるいはたけり狂っていたが、 沖縄タイムスや琉球新報は、 ひとまずほっとしているのである。 当事者と、 そうでない者との、 この落差の大きさ、 あるいは想像力 ・ 共感能力の欠如は……!

 

  しかし、 うかうかしていると、 検討期間はたちまち消えてしまう。

 

  与えられた時間は「基地問題を根本的に見直す時間」として、 有効に使わなくてはならない。

 

◆メディアに求められる役割は何か

 

  朝日16日付の社説と同じ3面に、 社説に匹敵する大きさで加藤洋一編集委員の評論「同盟像語り、 日米に信頼を」が掲載されている。

 

  やはり米側に立っての見方が基調となっているが、 たんに米側の信頼を取り戻せとは言っていない。

 

  「15日、 与党3党で確認された政府方針で、 現行案は死んだとみるべきだろう。 これは現行案を『唯一実現可能』としてきた米国に、 百八十度の方針転換を迫るもので反発は必至だ」

 

  「米側は鳩山政権が日米同盟を縮小しようとしているのではないかとの疑念を持ち始めている」

 

  「解決の糸口は、 遠回りのようでも同盟そのもののあるべき姿を語り合う『戦略協議』に求めるしかない」

 

  このように提起して、 安保に対する日米間のとらえ方のズレを紹介した後、 加藤編集委員はこう提言する。

 

  「首相や政権が、 安全保障面で『対米依存』の縮小を図ろうとしているのであれば、 この際、 国民に見える形で、 米国と正面切って議論すべきだろう」

 

  「両首脳が先月、 立ち上げに合意した『日米同盟深化のための「新しい協議プロセス」』は……日米両政権が同盟のあるべき姿を根本から語り合う場として始動してはどうだろう」

 

  私は大賛成である。 ぜひともその構えを、 鳩山首相はとってほしい。

 

  さる12月8日、 東京都内で開かれた米戦略国際問題研究所(CSIS)などによるシンポジウムでのアーミテージ元国務副長官の発言を、 NHKテレビのニュースで聞いた。 こう言っていた。

 

  「もし米軍や自衛隊がいなければ、 あなたがた日本人は一晩でもゆっくり眠れますか?」

 

  こういう考え方を含め、 政権が変わったいまこそ――

 

  戦争について、 平和憲法について、

 

  冷戦終結前と後との世界の変化について、

 

  日米安保が果たした「役割」について、

 

  アジアにおける「脅威」について、

 

  イラク戦争、 アフガン戦争とは何だったのかについて、

 

  21世紀のいま軍事力で何ができるのかについて、

 

  米軍の前方展開戦略がはたしていかなる意味を持つのかについて、

 

  またそれはだれにとって必要なのかについて、

 

  在日米軍はどこと戦うのかについて、

 

  米軍は何を根拠に沖縄を必要とするのかについて――

 

  「根本から」考えなくてはならない。 普天間問題先送りによって確保された時間は、 まさにそのための時間だと、 東京新聞や沖縄の2紙は述べていたのである。

 

  であるならば、 そのための材料を豊富に提供し、 議論の場(フォーラム)を提供することこそ、 マスメディアの役割ではないか?

 

  米側の見方ばかり紹介するのではなく、 沖縄現地の人々の受け止め方、 とくに2000日をこえて辺野古の海岸に座り込みを続ける人たちの思いを伝えるべきではないか?

 

  米軍再編の一環として、 現在の海兵航空隊の戦闘機60機の上に、 さらに厚木の空母艦載機60機を背負わされようとしている、 山口県岩国の人々の思いも伝えるべきではないか?

 

  そう思って、 今朝(17日)の新聞を見ると、 普天間問題に直接ふれた記事は見当たらず、 もう「過去」のものとなったようだ。 (了)