梅田 正己/ジャーナリスト)/著書『「非戦の国」が崩れゆく』(高文研)他)/政府「御用新聞」の岩国住民投票報道/06/03/15

 


政府「御用新聞」の岩国住民投票報道

         梅田 正己(書籍編集者。著書『「非戦の国」が崩れゆく』他)

 3月12日の岩国住民投票の結果は、久しぶりに主権者としての市民の意思を明確に示した出来事だった。地元の意向を無視し、市民の頭越しにすすめてきた米軍再編に引きずられての基地再編計画に対する、市民側の痛烈な異議申し立てだった。政府がめざしている3月末の「最終報告」の取りまとめもこれで一挙に怪しくなった。

当然、新聞は大きく取り上げた。

翌13日の朝日新聞は、1面トップに「米軍受け入れ 反対9割」と横見出しを掲げ、「投票率58%、艦載機移転、再編に影響も」「初の民意、国に重圧」とその持つ意味の重大さを伝えた。

毎日新聞もまた、一面トップに「米部隊受け入れ反対」と黒ベタ白抜きの見出しを立て、「岩国住民投票、圧倒的多数」と報じた。そして関連記事を、朝日と同様、3面と社会面に載せた。

ところが読売新聞だけは、このニュースを、1面ではあったがトップからはずしていた。何がトップだったかといえば、「医療事故報告/3割、年齢・性別伏せる」という記事だ。医療事故そのものではない。事故の報告が、個人情報保護を理由に一部伏せられているという話だ。ニュースバリューからいって、岩国住民投票とは比較にならない。

しかし読売はその住民投票の記事を4段目にずらし、しかも「米軍機移駐『反対』87%」という見出しの横に、これもほぼ同じ大きさの活字で「国は計画変更せず」と添えていたのだ。

そして3面で、ほぼ全面を使ってこの住民投票を解説していたが、その見出しは、大きい順からこうなっていた。

「政府『反対は想定内』」「米軍機移駐、理解に全力」「沖縄に飛び火警戒 地元に亀裂も」

一瞥して、読売が政府の立場に立ち、政府を代弁していることがわかる。

さらにこの面には、森本敏・拓殖大教授のコメントが出ていた。「安全保障で住民投票・民主主義乱用の恐れ」と題したそのコメントで森本氏はこう述べていた。

「国の安全保障問題は本来、一自治体の住民投票にはなじまない。国政を担う国会議員が決めるべきで、個々の選挙区の有権者の意見は国会議員を通じて政治に反映させるものだ」「日米同盟など国に必要なことが、市の決定で左右されるとしたら、それは民主主義の乱用と言うべきだ」

社説もまた、この問題で書いていた。住民投票の結果が判明したのは夜中だったから、他紙の社説はいずれも翌日だったが、読売だけはこの日に出していた。いわゆる予定稿だったのだろう。タイトルは「それでも在日米軍再編は必要だ」。その末尾だけを引用する。

「日本側の事情で再編計画が遅れては、日米の信頼関係が損なわれる。政府は、月内を目標とする日米最終合意に向け、全力を挙げなければならない」

民間の土地を強制的に取り上げて使用する際には、土地収用法が適用される。大日本帝国憲法下での土地収用法はその適用ケースの第一として、「国防その他軍事に関する事業」を挙げていた。つまり、要塞や演習場をつくる際には、個人の私有地であっても問答無用で強制収用できたのだ。

しかし日本国憲法が生まれ、9条によってこの国が「軍事」と絶縁したことにより、土地収用法が改正され、この条項は抹消された。つまり、「軍事」を目的に土地を強制収用することは出来なくなった。

この例に見るように、日本国憲法によってこの国は「軍事優先」の国から「非軍事」「非戦」の国に転換した。しかしいまやこの「軍事優先」が復活したかに見える。その「軍事優先」思想に立って、読売は「それでも在日米軍再編は必要だ」と声高に主張し、政府の立場に立って住民投票に現れた市民の意思を白眼視する。

米国の後に付き従って「軍事国家」へと回帰してゆくこの国の政府の露払いをせっせと務める政府「広報紙」は、やんぬるかな、発行部数最大の新聞なのである。(写真岩国米軍基地/cosmosより)