梅田正己/編集者/ この日本に イージス艦が 本当に必要なのか? /08/02/21

この日本に イージス艦が 本当に必要なのか?

 

書籍編集者  梅田 正己

 

2月19日早朝、房総半島沖で海上自衛隊のイージス艦「あたご」が出漁途上の漁船「清徳丸」に衝突、船体を真二つにへし折った。「あたご」が基準排水量7750トン、全長165メートルなのに対し、「清徳丸」は7トン、12メートルにすぎなかった。ぶつかられれば、ひとたまりもなかったのは当然だ。

事故が起こった海域は、とくに日の出前の早朝、船の通行量の多いことで知られる。房総半島の漁港からマグロやカジキの好漁場となっている伊豆諸島東方をめざす漁船に加え、北米航路を中心に商船の往来も多く「通行量は世界でも3本の指に入る」という(日本財団・山田吉彦氏、東京新聞2・20付)。
また、この後「あたご」が横須賀基地に向かうために通る、東京湾沖から相模湾にかけての一帯も、夜明け前には漁船や釣り船が豆をまいたようにちらばる。

そんな海域の、いわばラッシュ時に、なんで「あたご」は入ってきたのだろうか。 なんで、そんな時間帯を選んだのだろうか。
市民社会における自衛隊のあり方の根本にかかわる問題として、事故の直接の原因である見張りや操船の問題とともに、ぜひ明らかにしてほしいと思う。

ところで「あたご」は現在のところ海上自衛隊の護衛艦(世界共通語では駆逐艦〈英語でデストロイヤー〉)の中で最大であるとともに、5隻目のイージス艦である。
先行した4隻のイージス艦は、昨年12月、ハワイで弾道ミサイル防衛(BMD)の実験で成功したと伝えられた「こんごう」型の4隻だ。
来年度はBMD2番艦として「ちょうかい」が迎撃ミサイルSM3の実験を行い、つづいて2010年度までに4隻全部がSM3搭載のための改修を完了することになっている。

しかしこれで、海上配備型のBMDが完了するわけではない。
現在、日米共同で次世代型のSM3を開発中だが、それが成功した場合に搭載を予定されているのが、この「あたご」なのだ。
「あたご」は昨年3月に竣工した新鋭艦だが、今年3月には同型2番艦の「あしがら」が竣工する。いずれも「こんごう」型を上まわる防空管制能力をもつ、最新のイージスシステムを備えた大型艦だ。

このように、自衛隊はいま、多額の予算(来年度の概算要求は約1580億円)を投入し、米軍の後について弾道ミサイル防衛の整備へと突進している。
今回の「あたご」の事故も、昨年11月からハワイで迎撃ミサイルの発射テストを行い、3カ月ぶりに帰国したとたんの事故だった。

しかし、弾道ミサイル防衛なるものが果たして物の役に立つのだろうか。
日米のBMDの仮想敵国は、周知のように北朝鮮である。
だが、これも周知のように、この2月26日には米国の名門交響楽団、ニューヨーク・フィルハーモニックが平壌で公演する。
6カ国協議は、今のところ北朝鮮の各計画の申告の問題で停滞しているが、昨年の3月から6月にかけ米国の北朝鮮に対する金融制裁解除問題でこう着状態がつづいたものの、結局は米国の譲歩で決着したように、今回の事態もいずれは打開されるはずだ。
というのも、米朝両国の政権にとって、国交正常化のほかにとるべき道がないことはいまや明白だからだ。

このように、国際情勢を冷静に見るなら、北朝鮮から日本あるいは米国に向けて弾道ミサイルが発射されるようなことは万が一にもあり得ないと断言できる。
それなのに、国会でも踏み込んだ議論はほとんどないまま、砂上の楼閣としか言いようのないBMDが、国民の血税を投入してすすめられている。
今回、最新鋭イージス艦「あたご」の、拙劣きわまる操船によって引き起こされた悲劇的な事故は、米国に従属したこの国の防衛政策の倒錯を象徴しているのではないか。

現在、横浜の造船所では次の大型護衛艦が建造中だ。基準排水量1万3500トン、全長197メートル、甲板は、艦首から艦尾まで平らで(全通甲板)最大11機のヘリコプターを搭載できる。護衛艦と称しているが、形も機能も完全な“ヘリ空母”だ。
「ひゅうが」と名づけられ、来年3月に就役する。
また現在、インド洋では、補給艦「ましゅう」が給油活動を行っている。その基準排水量も1万3500トン、全長はなんと221メートルにも及ぶ。
またこの3月には、ボーイング767を改造した空中給油機が航空自衛隊に配備される。

「専守防衛」のはずの自衛隊に、どうしてこのような長期の海外遠征を想定しているとしか考えられない兵器が着々と装備されていくのか?!
変貌する自衛隊のスピードに反比例して、マスメディアによる自衛隊報道は少なくなった。米軍再編=日米同盟再編とからんで、自衛隊は激しく変わりつつある。

今回の痛ましい事故は、その実態に切り込んでゆく、またとないチャンスではないだろうか。
マスメディアに従事する皆さんの奮起を望んでやまない。

(著書『変貌する自衛隊と日米同盟』『「北朝鮮の脅威」と集団的自衛権』いずれも高文研 )

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