梅田正己/ジャーナリスト/自衛隊海外派兵のための"中核部隊" 新たな日米同盟の"シンボル的戦闘集団"
「中央即応集団」、いよいよ発足!/07/03/23

 

自衛隊海外派兵のための"中核部隊"

新たな日米同盟の"シンボル的戦闘集団"
「中央即応集団」、いよいよ発足!
 

――しかしマスメディアは“平和ボケ”?!

  梅田 正己(編集者。近著『変貌する自衛隊と日米同盟』

 朝日新聞でいま「新戦略を求めて」という大型企画が進行中だ。
その「第6章」は「21世紀の安全保障」で、その3回目(3月21日掲載)のテーマは「日米同盟」だったが、記事中、自衛隊と日米同盟の動向に関心をもつ私には強く引っかかる箇所があった。

「自衛隊の海外活動」と題された大きな記事の末尾の文章だ。
こう書かれていた。

――「自衛隊の海外活動を本来任務に格上げした以上、それを実現するための人的資源や予算の配分、新たな装備の整備が必要となるが、それもまだこれからだ。」

 うっかりすると、読みすごしてしまいそうな文章だ。
しかし、多少とも事実を知っているものには、読み飛ばすことはできない。
マスメディアによる一種の"事実隠蔽"ともいえるからだ。

 

 引用した記事冒頭の「自衛隊の海外活動を本来任務に格上げした」というのは、先ごろ安倍内閣が、防衛庁の「防衛省」昇格法案にまぎれ込ませる形で自衛隊法を改正、これまで"余技"あつかいだった海外活動を第3条の本来任務の中に位置づけたことをさす。
 これにより、「専守防衛」に限定されていた自衛隊の本来任務が海外にまで拡大された、つまり自衛隊の"定義"が変わったということを、私はこのコラムで指摘した。

 記事で問題なのは、その「自衛隊の海外活動」のための準備が「まだこれからだ」と書いていることだ。
とんでもない。準備は着々とすすんでいるのである。

(写真:海上自衛隊演習の一環の日米共同訓練に参加、FA18Fスーパーホーネットなど第5空母航空団の航空機を搭載して紀伊半島沖の太平洋上を航行する米第7艦隊の空母「キティホーク」(11月15日) 朝雲新聞より転載)

 

 自衛隊の準機関紙ともいえる『朝雲』(週刊)の3月15日号に、「中央即応集団、今月末に発足」という大きな記事が出ていた。
05年度から実施に移された「防衛計画の大綱」でその新設が示され、また同05年10月、米軍再編にともなう日米両政府の合意 「日米同盟――未来のための変革と再編」において米陸軍第一軍団の司令部がキャンプ座間に移ってくるのとあわせ、同じキャンプ座間に司令部を置くとされた自衛隊の新しい戦闘集団「中央即応集団」が、この3月末、ついに発足するのだ。

 新たにスタートする中央即応集団(CRF=Central Readiness Force)は「防衛大臣の直轄部隊」と位置づけられ、司令官には陸上自衛隊の最高位である陸将が就く(3月28日付の防衛省人事で、西部方面総監部幕僚長だった山口浄秀陸将が任命された)。
 司令部は、米国との約束で2012年までにキャンプ座間に移されるが、それまでは朝霞駐屯地に置かれる。そのための司令部庁舎も、この3月に完成する。

 総員4100人からなるCRFは、つぎのような部隊で構成される。
◆司令部・付隊(朝霞、230人。国際経験や特殊作戦能力を持つ要員を集める)
◆ 第一空挺団(習志野)
◆ 中央即応連隊(08年3月、宇都宮駐屯地に700人で新編が予定され、現在全国から高い能力を持つ隊員を募集中。防弾対策の車両約100台を装備)
◆ 特殊作戦軍(習志野)
◆ 第一ヘリコプター団(木更津)
◆ 中央特殊武器防護隊(大宮、200人。放射能や生物・化学剤に汚染された地域でも活動できる装備を配置)
◆ 国際活動教育隊(駒門、80人。海外の苛酷な自然環境や異文化の中で任務に従事できる要員の育成に当たる)
◆ 対特殊武器衛生隊(朝霞、70人。化学・生物テロなどで負傷した人員の治療に当たる専門部隊)

 米本土ワシントン州からキャンプ座間に移ってくる米陸軍第一軍団司令部を改編した「統合作戦司令部」は、特殊作戦能力をもつ陸上部隊を運用する。

 その座間で司令部どうしが机を並べることになる陸自の中央即応集団も、その構成部隊から明らかなように特殊部隊だ。
双方が同じ特殊作戦能力を備えることによって、共同作戦も可能になる。

 一昨年10月に日米両政府が合意した日米同盟の将来図は、日米両軍が一体となって世界各地で治安維持あるいは覇権確保に動くという構図である。
 だからこそ、その合意文書のタイトルは「日米同盟――未来のための変革と再編」となっていた(つまり、米軍再編とあわせて自衛隊の「変革と再編」もそこには含まれていたのだ)。
 そしてそこでの約束どおり、日本政府と防衛庁・自衛隊は、自衛隊の海外活動(=米軍との共同作戦行動)を「実現するための人的資源や予算の配分、新たな装備の整備」を、この中央即応集団の編成・発足に見るように、着々とすすめてきたのである。にもかかわらず、そうしたことは「まだこれからだ」と大新聞が書く。
 使いたくない嫌な言葉だが、"平和ボケ"と言わざるを得ないのではなかろうか。