梅田正己/編集者/防衛「省」法案とともに、自衛隊法も改変、 自衛隊の「定義(基本性格)」が変えられる!/06/12/04

 


防衛「省」法案とともに、自衛隊法も改変、
自衛隊の「定義(基本性格)」が変えられる!

梅田 正己(ジャーナリスト。この12月中旬、新著『変貌する自衛隊と日米同盟』を出版)

11月30日、防衛庁を防衛「省」に昇格させる法案とともに、自衛隊法の改正案が衆院を通過した。
自衛隊法「改正」の重大さについては、一部の新聞でも指摘された。
「海外派遣『本来任務』に」「『防衛省』法案衆院通過」――朝日、12/1
「自衛隊法改正案 論議進む」「海外へ軸足 揺れる『専守』」――東京、11/30

では、改正されたのは自衛隊法の第何条であり、法案の内容はどういうものなのか。
それについて、私はマスメディアでは見ていない。
かんじんの法案は伝えないで、解説が述べられているだけだ。

インターネットの「官公庁――衆議院」の項目で調べてみた。
「防衛省」法案の方はすぐに見つかった。
「防衛庁設置法等の一部を改正する法律案」というタイトルがあったからだ。法案が通れば、これが「防衛“省”設置法」と変わる。

しかし、自衛隊法改正案のタイトルは、どこをさがしてもない。
行きつ戻りつして探すうちに、やっと見つかった。
なんと、「防衛庁設置法改正案」の中に自衛隊法改正案も含まれていたのだ。
A4の用紙で打ち出して30ページ近くあるうちの前から4分の1くらいのところに
  (自衛隊法の一部改正)
とあって、そこに自衛隊法の中でも最も重要な第3条の「改正案」が示されていたのだ。

防衛庁設置法改正案がA4で30ページ近くもあるのは、「防衛庁」や「防衛庁長官」が登場する何十という法律の該当箇所を「防衛省」「防衛大臣」に差し替えなくてはならないといったことがあるためだ。
そうした改正案を一括して含めて「防衛庁設置法案“等”の一部を改正する」としたのは、当然と言える。

しかし、自衛隊法の「核」とも言える最重要条項の改正を、他の枝葉末節もろもろの改正と併せて“等”の中にぶち込んだのは、いったいどういう魂胆なのか。
自衛隊法の中には当然、「防衛庁長官」がたびたび登場する。それを「防衛大臣」に差し替える必要は、もちろんあるだろう。
だが、そうした「改正」と、第3条の改変とはまったく意味が異なるのだ。

それなのに、枝葉末節の改正案の中に、さりげなく最重要の条項をもぐり込ませて、たらいの水を流すようにいっぺんに通してしまおうという手口は、コソクというより、むしろ陰謀と言うのにふさわしい。

さて、その自衛隊法の中でも最重要な第3条は、次のようなものだ。
第3条(自衛隊の任務) 自衛隊は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当るものとする。
(2項は、陸上、海上、航空の各自衛隊の行動空間を規定)

以上に見るとおり、自衛隊の任務は「わが国の防衛」に限定されている。
この規定があって、憲法9条による規制とあわせ、自衛隊の「専守防衛」、つまり自衛隊は海外にまで出動して軍事行動を起こすことはない、という基本性格が形づくられた。
「専守防衛」を法律として定めたこの第3条が、自衛隊のいわば「定義」だったのである。

ところが、今回の「改正案」では、この第3条に、「2項」として次の条項が付け加えられた。

《2 自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であつて、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。
  一 我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動
  二 国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動》

先の東京新聞の記事の見出しは「海外へ軸足 揺れる『専守』」だった。赤旗の記事(12/1)の見出しは「海外派兵が本来任務に」とあった。
要するに「専守防衛」に限定されていた自衛隊の「任務」が、海外にまでも拡大されたのである。

ということは、自衛隊はもはや「専守防衛」ではなくなったことを意味する。
それはまた、自衛隊の基本性格が変わったことを意味する。
つまり、自衛隊の「定義」が変わったのである。

国民にはかんじんの法律案も知らされぬまま、52年の歴史を持ち、25万人の隊員と世界有数の新鋭装備を持つ自衛隊の「定義(基本性格)」が、法律によって改変されてしまった。
こんな事態を、どう見たらいいのか。

それにしても、上記第3条の改正案は、悪文の上にさまざまな含みがあって読み取りにくい。
これについては、稿を改めて述べることにしたい。