梅田正己/編集者/政府主導でつくられた「北朝鮮のミサイル危機」/06/07/18

 


政府主導でつくられた「北朝鮮のミサイル危機」

             梅田 正己(編集者。著書『「非戦の国」が崩れゆく』他)

去る7月5日未明から夕刻にかけ、北朝鮮は7発のミサイルを発射した。その3発目が新開発の長距離弾道ミサイル・テポドン2だったと推定されるが、米軍の追跡では発射後40秒で消息を絶ち、米国は失敗だったと判定した。

残る6発は、短距離弾道ミサイル・スカッドと、射程1300キロの中距離弾道ミサイル・ノドンで、これらはいずれも北朝鮮とロシア沿海州沖の一定海域に落下した。

このミサイル発射は世界に衝撃を与えたが、中でもきわだって強いショックを受けたのが日本だった。日本政府はただちに、万景峰号の半年間入港禁止など9項目の制裁措置を発表するとともに、国連安保理に対し緊急会合を開くことを要請した。

さらに日本政府は、ミサイル発射からまだ24時間もたっていないニューヨーク時間5日午後(日本時間6日未明)、安保理のメンバー国に対し、日本が作成した北朝鮮制裁決議を提示した。経済制裁から場合によっては軍事制裁へとすすむ制裁行動の根拠となる国連憲章第7章にもとづく決議案だった。

このように敏速な行動を見せた日本政府だったが、しかしミサイル発射の翌6日、東京都内で講演した阿倍晋三官房長官は、ミサイルを発射した北朝鮮の狙いについて、「米国との直接対話を求めているという考え方が常識的だ」と述べ、またミサイルの落下地点が一定の範囲内に限定されていることから、「指揮命令系統にかかわりなく勝手に始めているということではない。計画的にすすめている」と語り、「金正日総書記の統率で行われているとの認識を示した。」(朝日、7・7)

ところがこの後、テレビのワイドショーなどを中心に北朝鮮の脅威があおられ、危機感がエスカレートしてゆく中で、10日、安倍官房長官はミサイルの発射基地をたたく「敵基地攻撃」にふれてこう発言した。以下、朝日7・11付から。

《安倍官房長官は10日の記者会見で、北朝鮮のミサイル発射を受けて議論されている敵基地攻撃について「誘導弾等による攻撃を防ぐために他に手段がないと認められる限りにおいて、誘導弾等の基地をたたくことも法律上の問題としては自衛権の範囲内として可能との(国会)答弁がある。日本国民と国家を守るために何をなすべきかという観点から、つねに検討研究を行うことは必要ではないか」と述べた。》

安倍官房長官の言い回しはきわめて慎重だ。しかし、条件付きではあるが敵基地攻撃も可能とした過去の政府答弁を紹介し、それについての検討が必要と述べたことで、明らかに敵基地攻撃を視野に入れていると受け取られたのは当然だった。

これに加え、テレビに登場した麻生外相や額賀防衛庁長官も、「専守防衛」原則を乗りこえる発言で注目を引いた。

麻生外相「(ミサイルが)日本に向けられる場合、被害を受けるまで何もしないわけにはいかない」

額賀防衛庁長官「敵国が確実に日本をねらって攻撃的な手段、ピストルでいえば引き金に手をかけた時であれば、日本を守るためどうするかという判断は首相と我々ですることが出来る」

ミサイルの発射後、ただちに北朝鮮制裁に踏み切り、安保理の緊急会合を要請、いち早く制裁決議案を作成・提示した日本政府の素早かった行動と、これら相次ぐ閣僚の発言から、今回のミサイル発射をめぐる緊張感・危機感の高まりと広がりは、政府が主導し、テレビメディアがそれに全面的に同調してつくりだされたものだといえる。

これにより、もともと米国のブッシュ政権向けのシグナルだった北朝鮮のミサイルが、「日本への脅威」へと転換された。

なお、「北朝鮮の脅威」をあおった麻生外相と額賀防衛庁長官は、いずれも米軍再編・自衛隊再編を推進する立場にある閣僚である(日米安保協議委員会=2+2の日本側の2)。