池田龍夫/元毎日新聞・ジャーナリスト/(49)アフガン紛争、泥沼化を危惧―イラク撤退の一方で、米軍増派とは―09/04/01
オバマ米大統領は2月17日「アフガニスタンへ米軍1万7,000人増派」を決断した。現地の治安が悪化し、増派せざるを得ない状況のようで、「ベトナム」「イラク」同様の泥沼化を懸念する声が上がっている。
アフガン紛争は、イラク戦争ほど報道されず一般に分かりいくいため、基礎データを整理しておこう。「9.11テロ」発生後の01年10月7日から米英軍を主体に「不朽の自由作戦」(ОEF)と称するアルカイダ掃討作戦に乗り出し、11月20日首都カブールを制圧、タリバン政権は崩壊した。米軍が担っていた軍事指導権はその後段階的にNATО軍に移行、06年7月移管を完了した。
これには03年5月勃発したイラク戦争の米軍負担軽減の狙いがあったようだ。NATО加盟37ヵ国で構成される「国際治安支援部隊」(ISAF)として活動しており、主要国軍の現段階での派遣兵力は、米3万7,000人、英8,910人、独3,405人、仏2,890人、カナダ2,830人、伊2,350人、オランダ1,770人、ポーランド1,590人……となっている(『朝日』調べ)。
次いで2月27日、オバマ大統領は「イラク戦争終結に向けた新戦略」を発表。イラク駐留米軍は現在14万人強だが、「10万人前後を2010年8月までに撤退させる。非戦闘部隊3万5,000~5万人は残すが、11年末までに全駐留米軍を完全撤退させる」との方針だ。オバマ大統領は、ブッシュ前大統領のイラク開戦に一貫して反対しており、大統領選挙戦中も早期撤退(当初は『就任後16ヵ月以内撤退』)を主張していたので“公約”実施に踏み切ったに過ぎないとも言えようが、「イラク戦争終結」へ方向転換させた意義は評価できる。
だが、先に大統領が打ち出した「アフガンへの米軍増派計画」と「イラク撤退計画」がセットになっている点に難題が残る。対テロ戦争の軸足を、イラクからアフガンに移す戦略転換をオバマ大統領が計ったに違いない。果たして、この「オバマ新テロ戦略」が、アルカイダ掃討→中東和平に通じるだろうか。最近のアフガン情勢はますます険悪化しており、カルザイ傀儡政権は“風前の灯火”とも言われている。アフガン駐留米軍のマッキャナン司令官も2月18日「1万7,000人の増派部隊が夏までに現地入りしても、09年は困難な年にならざるを得ない」(『朝日』2.19夕刊)と厳しい現状分析を示していた。
アフガンでの一般市民の犠牲者が08年は2,118人と、前年の1,523人から4割増えていることが、2月17日国連アフガニスタン軍(UNAMA)の調査で明らかにされたが、この犠牲者数は米軍が対テロ戦争を開始した01年秋以来最多という。08年の犠牲者のうち55%に当たる1,160人は自爆テロなどの巻き添えらしいが、828人(39%)は多国籍軍の攻撃によって死亡したといわれる。
昨年8月「ペシャワール会」職員の伊藤和也さんが現地で誘拐・殺害されたが、08年に民間援助関係者38人が犠牲になっており、治安状況は悪化の一途だ。この混迷下での「米軍増派」は打開策どころか、泥沼化の危険性をはらんでいる。
■反米感情高まり、タリバン勢力が拡大
「アフガンの民衆に深くとけ込んで民生支援の実を挙げている『ペシャワール会』(福岡市)代表の中村哲医師は『米軍の展開で混乱が広がることは分かりきっている』と増派計画を批判する。同医師によると、現地の治安は昨年9月ごろから急激に悪化、全土に飢餓がまん延し、無政府状態の混乱が広がりつつあるという。それを裏付けるような深刻な現実が先日明らかになった。国連アフガニスタン支援ミッションは戦闘による一般市民の犠牲者が08年、2,118人にのぼったと発表した。カルザイ大統領は、米国に住民の犠牲を防ぐよう求め、武力重視の路線の転換を訴えてきた。米軍攻撃による住民の犠牲が反米感情を強め、タリバンの勢力拡大を招いているとの判断からだ。それを押しての増派である。
事態が沈静化する保証はどこにもない治安悪化、タリバンの勢力復活の背景には、実は戦乱と干ばつで疲弊した農村の現実があり、農地なき農民は難民になるか、軍閥などの傭兵になるしか道がない。中村医師はこのように訴えてきた。今一度立ち返って考えねばならない指摘だ。戦闘が激化すれば、荒廃した農地を回復するため農業用水路を引いているペシャワール会の事業継続は困難になる。日本政府などからの民生協力の障害にもなる。
オバマ政権はアフガンの包括的戦略を策定する作業を進めている。アフガンを救うのは、銃ではなく、まずパンと水だと言われる。米国は政策を転換して軍事行動によらない平和的手段による治安回復を目指すべきだ」(佐賀新聞3.1朝刊)
との指摘は、最近帰国した中村医師への取材を通じてアフガン問題をリアルに分析していた。
「オバマ大統領は2011年までにイラク派遣軍の本格撤退を進めるとしながらも、アフガンに関しては増派を行うとしている。考えてみれば、06年の中間選挙でブッシュ政権の与党共和党が敗北し、その責任をとる形でラムズフェルド国防長官(当時)からゲイツ長官に交替した時点で、ほぼ決まっていた。イラク、アフガンへの戦略、そして全世界における米軍の再編という流れをオバマ政権は、ゲイツ長官を留任させながら更に具体化させていくことになろう」(2.28『USAレポート』)
と、在米評論家の冷泉彰彦氏が指摘しているような背景があったと考えられる。
■真の「国際協調主義」実践を
オバマ大統領は、ブッシュ前政権の単独行動主義と決別し、地球環境などあらゆる分野での「国際協調主義」を喧伝している。「スマートパワー」のキャッチフレーズで、柔軟な国際協調を呼びかけたことには異論あるまい。
2月24日、麻生太郎首相は他国首脳に先駆けてホワイトハウス入りを果たしたが、迎え入れたオバマ大統領が「日本は偉大なパートナーだ」と賛辞を送って、会談に臨んだ。日米協調路線の見直し・強化に狙いがあることは明らかで、軍事力以外でも日本の経済力・技術力のサポートを引き出したいということだ。
ここで警戒すべきは、日米軍事一体化の枠組みを更に強固にし、国際的軍事・外交に従来以上のコミットを米国が要請してきた点である。アフガン戦略の見直しを契機に、日本に一層の“国際協力”を求めたことは、その一環であろう。
■“対米追従〟の援助戦略を見直せ
「日本の援助戦略が単なる対米協力に陥ってはなるまい。これまでベトナム戦争や湾岸戦争など、米国が戦争に踏み出すたびに日本は周辺の『前線国家』を支援してきた。07年にはイラクが日本の二国間援助のトップに躍り出た。アフガンにも01年以来、米英に次ぐ約1,600億円を援助した。今年度の第2次補正予算にも警察強化などのための約300億円を盛り込んだ。オバマ政権には、ジャパンマネーを活用して地域の反米意識を和らげようとの思惑があるに違いない。…援助資金をただ積み上げるのではなく、援助の中身を絶えず点検する必要がある。ずさんな援助で政権の腐敗を招けば、かえって和平は遠ざかるし、日本への信頼感も損なわれる。地域安定への道筋を示し、紛争当事者間の対話を進める。誤った政策が出てくれば米国にも直言する。まさに外交の出番なのだ。和平実現への日本のメッセージを国際社会に発信しなければならない」(『朝日』2.24社説)
との主張は、ジャパンマネーが無原則に拠出させられている現状への貴重な警告である。
憲法九条の「平和国家宣言」に基づき、「民生安定・災害復旧」に特化した日本独自の「平和部隊」構築を今こそ全世界へ鮮明にすべきだ。ブッシュ前大統領が「イラク戦争は間違いだった」と懺悔して職を退いたが、米国に追従して自衛隊“海外派遣”を強行した日本政府は、国民に「反省の弁」を示していない。サマワから陸自が、クウェートから空自が“無傷”で引き揚げたことを自賛し、「国際貢献を果たした」と認識しているようでは、「理念なき“二流国家”」の謗りを免れまい。
オバマ大統領はNYタイムズ紙(3.8)とのインタビューで「アフガン情勢は悪化しており、勝利しつつあるとは言えない」と明言。その上で「タリバン穏健派との対話を促す方策もアフガン戦略の選択肢の一つだ」という認識を初めて示した。大統領の掲げる「スマートパワー」路線が、全世界を戦火から解放するための遠大な理想と受け止め、“戦争放棄”を国是とする日本は「平和発信」の基地にならなければならない。アフガン紛争、泥沼化を危惧
―イラク撤退の一方で、米軍増派とは―
(池田龍夫=ジャーナリスト)
オバマ米大統領は2月17日「アフガニスタンへ米軍1万7,000人増派」を決断した。現地の治安が悪化し、増派せざるを得ない状況のようで、「ベトナム」「イラク」同様の泥沼化を懸念する声が上がっている。
アフガン紛争は、イラク戦争ほど報道されず一般に分かりいくいため、基礎データを整理しておこう。「9.11テロ」発生後の01年10月7日から米英軍を主体に「不朽の自由作戦」(ОEF)と称するアルカイダ掃討作戦に乗り出し、11月20日首都カブールを制圧、タリバン政権は崩壊した。米軍が担っていた軍事指導権はその後段階的にNATО軍に移行、06年7月移管を完了した。
これには03年5月勃発したイラク戦争の米軍負担軽減の狙いがあったようだ。NATО加盟37ヵ国で構成される「国際治安支援部隊」(ISAF)として活動しており、主要国軍の現段階での派遣兵力は、米3万7,000人、英8,910人、独3,405人、仏2,890人、カナダ2,830人、伊2,350人、オランダ1,770人、ポーランド1,590人……となっている(『朝日』調べ)。
次いで2月27日、オバマ大統領は「イラク戦争終結に向けた新戦略」を発表。イラク駐留米軍は現在14万人強だが、「10万人前後を2010年8月までに撤退させる。非戦闘部隊3万5,000~5万人は残すが、11年末までに全駐留米軍を完全撤退させる」との方針だ。オバマ大統領は、ブッシュ前大統領のイラク開戦に一貫して反対しており、大統領選挙戦中も早期撤退(当初は『就任後16ヵ月以内撤退』)を主張していたので“公約”実施に踏み切ったに過ぎないとも言えようが、「イラク戦争終結」へ方向転換させた意義は評価できる。
だが、先に大統領が打ち出した「アフガンへの米軍増派計画」と「イラク撤退計画」がセットになっている点に難題が残る。対テロ戦争の軸足を、イラクからアフガンに移す戦略転換をオバマ大統領が計ったに違いない。果たして、この「オバマ新テロ戦略」が、アルカイダ掃討→中東和平に通じるだろうか。最近のアフガン情勢はますます険悪化しており、カルザイ傀儡政権は“風前の灯火”とも言われている。アフガン駐留米軍のマッキャナン司令官も2月18日「1万7,000人の増派部隊が夏までに現地入りしても、09年は困難な年にならざるを得ない」(『朝日』2.19夕刊)と厳しい現状分析を示していた。
アフガンでの一般市民の犠牲者が08年は2,118人と、前年の1,523人から4割増えていることが、2月17日国連アフガニスタン軍(UNAMA)の調査で明らかにされたが、この犠牲者数は米軍が対テロ戦争を開始した01年秋以来最多という。08年の犠牲者のうち55%に当たる1,160人は自爆テロなどの巻き添えらしいが、828人(39%)は多国籍軍の攻撃によって死亡したといわれる。
昨年8月「ペシャワール会」職員の伊藤和也さんが現地で誘拐・殺害されたが、08年に民間援助関係者38人が犠牲になっており、治安状況は悪化の一途だ。この混迷下での「米軍増派」は打開策どころか、泥沼化の危険性をはらんでいる。
■反米感情高まり、タリバン勢力が拡大
「アフガンの民衆に深くとけ込んで民生支援の実を挙げている『ペシャワール会』(福岡市)代表の中村哲医師は『米軍の展開で混乱が広がることは分かりきっている』と増派計画を批判する。同医師によると、現地の治安は昨年9月ごろから急激に悪化、全土に飢餓がまん延し、無政府状態の混乱が広がりつつあるという。それを裏付けるような深刻な現実が先日明らかになった。国連アフガニスタン支援ミッションは戦闘による一般市民の犠牲者が08年、2,118人にのぼったと発表した。カルザイ大統領は、米国に住民の犠牲を防ぐよう求め、武力重視の路線の転換を訴えてきた。米軍攻撃による住民の犠牲が反米感情を強め、タリバンの勢力拡大を招いているとの判断からだ。それを押しての増派である。
事態が沈静化する保証はどこにもない治安悪化、タリバンの勢力復活の背景には、実は戦乱と干ばつで疲弊した農村の現実があり、農地なき農民は難民になるか、軍閥などの傭兵になるしか道がない。中村医師はこのように訴えてきた。今一度立ち返って考えねばならない指摘だ。戦闘が激化すれば、荒廃した農地を回復するため農業用水路を引いているペシャワール会の事業継続は困難になる。日本政府などからの民生協力の障害にもなる。
オバマ政権はアフガンの包括的戦略を策定する作業を進めている。アフガンを救うのは、銃ではなく、まずパンと水だと言われる。米国は政策を転換して軍事行動によらない平和的手段による治安回復を目指すべきだ」(佐賀新聞3.1朝刊)
との指摘は、最近帰国した中村医師への取材を通じてアフガン問題をリアルに分析していた。
「オバマ大統領は2011年までにイラク派遣軍の本格撤退を進めるとしながらも、アフガンに関しては増派を行うとしている。考えてみれば、06年の中間選挙でブッシュ政権の与党共和党が敗北し、その責任をとる形でラムズフェルド国防長官(当時)からゲイツ長官に交替した時点で、ほぼ決まっていた。イラク、アフガンへの戦略、そして全世界における米軍の再編という流れをオバマ政権は、ゲイツ長官を留任させながら更に具体化させていくことになろう」(2.28『USAレポート』)
と、在米評論家の冷泉彰彦氏が指摘しているような背景があったと考えられる。
■真の「国際協調主義」実践を
オバマ大統領は、ブッシュ前政権の単独行動主義と決別し、地球環境などあらゆる分野での「国際協調主義」を喧伝している。「スマートパワー」のキャッチフレーズで、柔軟な国際協調を呼びかけたことには異論あるまい。
2月24日、麻生太郎首相は他国首脳に先駆けてホワイトハウス入りを果たしたが、迎え入れたオバマ大統領が「日本は偉大なパートナーだ」と賛辞を送って、会談に臨んだ。日米協調路線の見直し・強化に狙いがあることは明らかで、軍事力以外でも日本の経済力・技術力のサポートを引き出したいということだ。
ここで警戒すべきは、日米軍事一体化の枠組みを更に強固にし、国際的軍事・外交に従来以上のコミットを米国が要請してきた点である。アフガン戦略の見直しを契機に、日本に一層の“国際協力”を求めたことは、その一環であろう。
■“対米追従〟の援助戦略を見直せ
「日本の援助戦略が単なる対米協力に陥ってはなるまい。これまでベトナム戦争や湾岸戦争など、米国が戦争に踏み出すたびに日本は周辺の『前線国家』を支援してきた。07年にはイラクが日本の二国間援助のトップに躍り出た。アフガンにも01年以来、米英に次ぐ約1,600億円を援助した。今年度の第2次補正予算にも警察強化などのための約300億円を盛り込んだ。オバマ政権には、ジャパンマネーを活用して地域の反米意識を和らげようとの思惑があるに違いない。…援助資金をただ積み上げるのではなく、援助の中身を絶えず点検する必要がある。ずさんな援助で政権の腐敗を招けば、かえって和平は遠ざかるし、日本への信頼感も損なわれる。地域安定への道筋を示し、紛争当事者間の対話を進める。誤った政策が出てくれば米国にも直言する。まさに外交の出番なのだ。和平実現への日本のメッセージを国際社会に発信しなければならない」(『朝日』2.24社説)
との主張は、ジャパンマネーが無原則に拠出させられている現状への貴重な警告である。
憲法九条の「平和国家宣言」に基づき、「民生安定・災害復旧」に特化した日本独自の「平和部隊」構築を今こそ全世界へ鮮明にすべきだ。ブッシュ前大統領が「イラク戦争は間違いだった」と懺悔して職を退いたが、米国に追従して自衛隊“海外派遣”を強行した日本政府は、国民に「反省の弁」を示していない。サマワから陸自が、クウェートから空自が“無傷”で引き揚げたことを自賛し、「国際貢献を果たした」と認識しているようでは、「理念なき“二流国家”」の謗りを免れまい。
オバマ大統領はNYタイムズ紙(3.8)とのインタビューで「アフガン情勢は悪化しており、勝利しつつあるとは言えない」と明言。その上で「タリバン穏健派との対話を促す方策もアフガン戦略の選択肢の一つだ」という認識を初めて示した。大統領の掲げる「スマートパワー」路線が、全世界を戦火から解放するための遠大な理想と受け止め、“戦争放棄”を国是とする日本は「平和発信」の基地にならなければならない。