池田龍夫/元毎日新聞・ジャーナリスト/政治の構造改革こそ急務

総選挙目前、麻生政権の体質を点検/08/11/01



 

政治の構造改革こそ急務

総選挙目前、麻生政権の体質を点検

 

(池田龍夫=ジャーナリスト)

 

 小泉純一郎首相の退陣から2年、バトンを引き継いだ安倍晋三、福田康夫両首相はそれぞれ約一年で政権を投げ出し、日本政治は迷路をさまようばかりだ。総選挙の洗礼を受けず政権にしがみついてきた自民党は、性懲りも無く麻生太郎首相を担ぎ出したものの、茨の道はなお険しい。

 

 憲政の常道に基づけば、小沢一郎・民主党代表に政権を渡し、早急に解散・総選挙を実施すべきケースだが、旧態依然たる政局ドタバタ劇に明け暮れている現状は、慨嘆に堪えない。政治の劣化によって国民生活を疲弊させ、国際的地位を著しく低下させた罪は大きい。

 

 外電によると、先進国各紙はそろって福田首相退陣→麻生新政権誕生にニュース価値を認めない、冷ややかな報道だったという。「四代目の『ブッシュのポチ』の幼児性首相の誕生を米側が見抜いていた」との酷評もあったというが、的外れとも言えまい。

 

NYタイムズ紙の辛辣な社説

 

 9月24日、92代首相に就任した麻生太郎首相は、翌25日、ニューヨークに飛び、国連総会に出席した。日本のプレゼンスを印象づけたい初演説だったが、日本独自の主張がなかったことは残念でならない。

 

 「国際社会はテロリズムに対する粘り強い取り組みを、まず続けなければならぬと信じます。我が国は、アフガニスタンの復興支援に当初から力を注ぎ、インド洋では給油活動を続けてまいりました。日本が今後とも国際社会と一体となり、テロとの闘いに積極参加することを申し上げる」

 

と力説、

 

 「日米同盟を不変の基軸とし、国際協調路線を堅持する」

 

と結んでいる。明らかに「日米同盟」という名の“対米追随”路線の継承を国際舞台で表明したものと受け取れる。

 

 その後の記者会見で麻生首相が、集団的自衛権の行使を禁じた憲法解釈について、「基本的に変えるべきものだ。ずっと同じことを言っている」と述べた点に、首相の“本音”を感じる。日米軍事再編を推進している米国の関心も「集団的自衛権の行使」にあると推察されるからだ。

 

 米紙ニューヨーク・タイムズ(9.25)が、「タロー・アソウの復活」と題する社説を掲載した。産経9.27朝刊が「麻生氏を好戦的な民族主義者と決めつけるなど不穏当な表現をちりばめた社説」と前置きして、内容をかなり詳しく紹介していたので、特派員電の一部を引用したい。

 

 「『(麻生氏は)好戦的な民族主義者で、外相時代には日本が植民地支配下で行ったことを称賛し、第二次大戦での残虐行為を正当化し、中国を危険な軍事的脅威と表現して中国、韓国との関係を損ねた』とした。そのうえで『日本の将来は最大の貿易相手国である中国、韓国、急速に発展する他の近隣諸国との政治、経済関係の強化にかかっている』と麻生氏を牽制した。さらに『米国が最も必要としているのは責任ある戦略的パートナーとしての日本であって、アジアから怒りを買うような帝国主義を空想し、力を誇示するような政府ではない』とクギをさし、『隣国を対等に扱い、民族主義を民主主義に入れ替える必要がある』と“進言”した」。

 

 同紙社説に対して日本政府は「社説には同意できない。麻生首相は05〜07年に外相として中韓との関係強化に大きく貢献した」との反論(児玉和夫外務報道官名)を投稿、10.5紙面に掲載されたが、麻生氏の過去の言動や政治姿勢を憂慮している国民は少なくなく、NYタイムズ紙の“警告”を真摯に受け止める必要があろう。

 

 「首相が外相時代に新機軸として打ち出した『自由と繁栄の弧』構想には、特に中国が『対中包囲網だ』と警戒心を抱いている。演説ではこの構想には触れなかったが、基本的価値を共有する諸国との連帯を重視し、価値観外交を進める考えを表明した。この点については国際社会に誤解を与えないよう、丁寧な説明が必要になる」(『毎日』9.27社説)との指摘は尤もである。

 

「かしこくも御名御璽をいただき」とは…

 

 ニューヨークからトンボ返りした麻生首相は9月29日、初の所信表明演説に臨んだ。新機軸を打ち出したいとの気持ちは分からないではないが、そのパフォーマンスには失望した。演説の冒頭、

 

 「この度、国権の最高機関による指名、かしこくも、御名御璽をいただき、第92代内閣総理大臣に就任いたしました。わたしの前に、58人の総理が列しておいでです。118年になんなんとする、憲政の大河があります。新総理の任命を、憲法上の手続きにのっとって続けてきた、統治の伝統があり、日本人の、苦難と幸福、哀しみと喜び、あたかもあざなえる縄の如き、連綿たる集積があるのであります」

 

との大仰で歴史認識に欠ける言葉の背後に「麻生政治」の体質が透けて見える。

 

 国民主権に基づいた現憲法下での「国会と天皇」の関係を無視、明治憲法からの“連綿たる統治”に言及するとは……。首相の祖父、吉田茂元首相の「臣・茂」発言を思い出し、背筋が冷たくなった。

 

 復古調・ベランメー調の言葉遣いと、マンガ好きが“売り”で、大衆受けを目論んでいるが、「私は新聞を読まない」との“本音”を耳にして、更に驚かされた人は多い。まさに「裸の王様」のようで、閣僚時代の麻生氏に接した元首相秘書官ブログの「よきにはからえ連発の大臣だった」との記述に、信憑性を感じるのである。

 

 麻生首相は「日本会議国会議員懇談会」(平沼赳夫会長)の有力メンバーで、同会には中川昭一財務・金融相、鳩山邦夫法相、石破茂農水相、安倍晋三元首相ら自民党議員多数が名を連ねている。

 

 保守系政・財界人の団体として有名な「日本会議」の考え方に賛同する国会議員が1997年5月に結成、憲法改正や教科書問題などに積極的提言を行っている。その流れを汲む「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の会長が中山成彬・前国土交通相だった。

 

 「日教組ぶっつぶせ発言」がたたって、就任わずか5日で退任を余儀なくされ、麻生首相も渋々「任命責任」を認めざるを得なかった。早くも傷ついた麻生内閣だが、所信表明演説は民主党批判に終始した内容で、目前に迫った「総選挙」を意識し過ぎた姿勢に顔をしかめた国民は多く、各紙論調も総じて「具体的政策に乏しい」「品格に欠ける」との指摘が目立った。

 

 「首相がまず語るべきなのは政権の課題と解決への道筋、さらに社会の将来ビジョンだ。その点で、演説内容は選挙での対決を意識するあまり空回りした感は否めない。首相は民主党をこう責め立てた。『先の国会で民主党は自らが勢力を握る参院で税制法案をたなざらしにした。政局を第一義とし、国民の生活を第二義、第三義にした』。続けて補正予算案、消費者庁設置法案、インド洋での給油継続、日米同盟と国連のどちらを優先させるかを民主党に問い、代表質問での回答を求めた。目先の景気対策や民主党内で意見の割れる安保問題などでくせ球を投げ込んだ格好だが、本来、これらの政策課題に責任を持つのは政権党である。はき違えては困る」(北海道新聞9.30社説)。        

 「『逆質問』を連発する所信表明は、通常だと官房長官が発表する閣僚名簿を自ら読み上げたのに続いて、『麻生流』を意識した政治スタイルかもしれない。しかし、麻生政権は何を目指すのか、どんな政策を具体的に実現するつもりなのかという肝心な点で物足りなさが残った。日本経済を『全治3年』と診断し、当面は景気対策、中期的に財政再建、中長期的に経済成長を目指す。自民党総裁選で唱えた主張を、首相は繰り返した。社会保障の安定財源について、消費税増税には一切触れず、『道筋を明確化すべく検討を急ぐ』と素っ気なかった。総裁選の公約を土台に、具体的な政権構想を所信表明に期待した国民は、肩透かしを食らったのではないか」(西日本新聞9.30社説)。

 

“米国一辺倒”からの脱却を

 

 「冷戦後、各国が戦略を再構築し始めた時から、日本は政治の混迷が続いた。首相が十人以上代わり、外交・経済ともに構造的な変革に一切手が打てなかった。いま世界で、米国やドルの一極支配と言う人はいない。求心力低下や多極化という言葉でも適切ではない。無極化、米国なき世界の中で、戦略を議論しなければならない。…かつて職業としての政治にかかわる人は緊張感を持って勉強し、ブレーンを固め、政策を蓄積してきた。今はテレビ政治化が進み、目立たないと選挙も戦えない。国民に語りかけ、引っ張っていく、マニフェストも時代認識や世界観を込めた政策論にならなければいけない」(寺島実郎氏=『朝日』9.22朝刊)

 

との指摘に応えられるよう、「日本政治再構築」を切望する。