池田龍夫/元毎日新聞・ジャーナリスト/地球“蘇生の道”険し 具体策に欠けた洞爺湖サミット08/08/01



地球“蘇生の道”険し

具体策に欠けた洞爺湖サミット

 

 池田龍夫=ジャーナリスト

 

 ドラスティックな地球温暖化対策(CO2排出削減)を打ち出さないと、今世紀後半の世界は恐るべき事態に追い込まれる。――「洞爺湖サミット」は世界注視の中で7月7〜9日の3日間、米・英・独・仏・伊・加・露・日のG8首脳が一堂に会して討議を行なった。1975年仏ランブイエ・サミットから数え、34回目の首脳会議だが、最終日に中国・インドなど新興経済国8ヵ国が加わって16ヵ国による「主要排出国会議」(MEM)が開かれたことは、「先進国の舵取りだけでは、地球を破局から救えない」との危機意識があったからに違いない。

 

 「資源をめぐる争奪戦と地球環境の悪化。今回のサミットは『グローバル時代の早すぎる終焉をいかに回避するか』をテーマにすべきだと思う。一人占め・早い者勝ち・弱肉強食……我欲の3点セットは、資源をめぐる争奪戦に限られた話ではない。グローバル・ジャングルの中では、誰もがいつも、この3点セットにおいて勝者となることを追求している。人々も、企業も、国々も。

 ところが、誰もが自分だけのサバイバルを追い求めれば追い求めるほど、誰一人としてサバイバル出来なくなる。弱肉強食の論理も、弱肉あってこそ初めて成り立つ。弱肉を食い尽くしてしまえば、強者もまた滅亡だ。誰もが一人占めを狙って囲い込み競争に走れば、地球経済はどんどん分断化されて行く。排除の論理が前面に出て、潰し合いの魔界へと落ち込んで行く」

 

と、浜矩子・同志社大教授がズバリ指摘(『毎日』6.5朝刊)している通りだが、洞爺湖サミットは危機回避の処方箋を示せたか? 地球温暖化討議に絞って考察したい。

 

CO2削減の数値目標盛り込めず

 

 世界最大のCO2排出国アメリカは、「京都議定書」(1997年12月CОP3で採択、2005年2月発効)から離脱したまま。米国をいかに説得するかが、議長国・福田康夫首相にとって“第一の関門”であり、首脳会議開会寸前まで日米調整を図って“共通の土俵”での討議に臨んだ。

 

 7月8日公表された「G8首脳宣言」によると、「2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量の少なくとも50%の削減を達成する目標というビジョンを、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)のすべての締約国と共有、目標をUNFCCCの下での交渉において諸国と共に検討、採択することを求める」との〈長期目標〉を一応打ち出した。

 

 昨年の独ハイリゲンダムサミットで日本やEUが提案した「50年半減」は、「真剣に検討する」との文言で先送りされていた。しかし今回も米国の意向に配慮して、明確な「半減目標合意」を宣言に盛り込めなかった。渋る米国を抱き込んだ苦肉の表現とも言えようが、福田首相が自画自賛するほどの成果とは思えない。これに続く〈中期目標〉は、さらに具体性を欠き、修辞的な外交文書の典型のような文体だ。

 

 「各国の事情の違いを考慮に入れ、先進国間における比較可能な努力を反映しつつ、排出量の絶対的削減を達成するため、先ず可能な限り早く排出量の増加を停止するために野心的な中期の国別目標を実施する。2013年以降の世界的な気候に関する枠組みを確保するためには、09年末までに交渉される国際合意において拘束される形で、全主要経済国が意味ある緩和の行動をコミットすることが必要である」と記した。

 

 日本やEUは既に中期目標を示していたが、宣言の中に数値の幾つかを盛り込むことを避けたのは何故か。しかし、京都議定書の約束から離脱した米国が宣言にサインしたことによって、“野心的な数値”を策定する責任を負わされ、13年以降の削減目標を明示することが義務付けられたと言える。

 

 G8首脳宣言後の「主要排出国首脳会議」(G8プラス中・印など8ヵ国)では、削減目標の数値には触れず、「気候変動は、重大な地球規模の挑戦の一つだ。主要経済国の首脳は、指導的役割を自覚し、共通だが差異のある責任と各国の能力に従い、気候変動問題に立ち向かうことを約束する」との「MEM宣言」も発表された。

 

 G8宣言をさらに薄めた内容だが、中国・インドなど経済成長著しい新興国抜きで地球温暖化を防止できないことは明らかで、即効性はともかく新興経済国を討議に引き込んだことは一歩前進だ。要は新興国の協調姿勢であり、来年の伊マッダレーナサミットでも16ヵ国会合の継続が決まった。

 

中国、インドなど新興経済国の圧力

 

 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が世界の政策決定者に求めている科学的な要求水準は、2020年までに先進国の25〜40%の排出削減や、今後10年から15年以内に、世界の排出量を減少に転じる早期のピークアウトである。今回のG8会合でも、温暖化対策の基本はIPCCの科学的予測にあると確認している。それなのに、20年をめどにした中期目標については、『野心的な国別総量目標』と、抽象的にしか示されていない。

 

 ……20年までに20%ないし30%削減という意欲的な中期目標を掲げるEUが今回、米国に譲歩したのは、来年十二月決着に向けて議論が本格化している国連の温暖化交渉の勢いをそがないためといわれる。中継ぎとしてのサミットのあいまいな役割を、議長を務める福田首相は見事に演じきったのかもしれない」という『日経』社説(7.9)は、派手な“演出”の割には、中味が薄いと指摘していた。

 

 米国、中国、インドというCO2大量排出国を同じテーブルに着かせた意義はあったと言えるが、先進国の責任を糾弾して「50年80〜95%削減」を迫る新興国側の姿勢は凄まじかった。経済成長最優先のエゴむき出しの発言に接し、温暖化防止への国際的共通認識の欠如を痛感した。

 

 「中印両国は、G8と同じテーブルに着く『新興国』と、成長や支援を訴える『途上国』の立場を巧みに使い分ける。『洞爺湖』は、G8と新興国の駆け引きが本格的に始まったサミットと位置づけられるかもしれない」(『毎日』7.10朝刊)との分析は、今サミットの問題点を端的に指摘している。

 

 いずれにせよ、1990年を基準年として取り決めたCO2削減(『京都議定書』)の第1約束期間は2008〜12年の5年間。しかし、京都議定書以降の地球環境の汚染は、減少どころか倍増しているのが現実だ。先進国のCO2排出量は地球全体の約40%で、削減義務を負っていない中国・インドなどを野放しできないことは明白であり、今回MEM参加の16ヵ国だけで、CO2排出量は80%に達するという。

 

 そこで2013年以降の“第2約束期間”の削減数値の国際合意を急がなければ地球の将来は危うい。このため、今サミットで「09年にデンマーク・コペンハーゲンで開かれる『CОP15』の成功に向け、建設的に協議を継続する」と合意し、16ヵ国でポスト京都の枠組みづくりをすることを確認した。

 

「低炭素社会へ」EUの積極的政策

 

 地球温暖化対策として1990年から相次ぎ「炭素税」を導入したEUが常に国際会議をリードしており、日本政府の取り組みが遅れていることが指摘されている。省エネ技術力で世界トップの日本が何故? の無念が募っており、ドラスティックな温暖化対策の提示が望まれる。

 

 「ドイツは2020年に90年比40%減と言い、多くの政策と資金を投入している。きっと20年には低炭素社会の原形ができている。仮に日本の目標が14%減なら、それだけ低炭素化に差がつきその後の競争は不利になる。温暖化対策のコストは、裏返せば低炭素社会への先行投資。…手遅れになる前に行動してこそ人間だ。日本を『温暖化との戦い』に欠かせない国にしなければいけない」と、末吉竹二郎氏(国連環境計画顧問)は警告する(『毎日』6.30朝刊)。

 

 英国では、世界初の「気候変動法」を作り、CO2削減目標遵守を法律で定め、気候変動委員会での監視強化に乗り出すという。欧米諸国が長期的視野に立った実効性ある政策を導入する中で、日本は「ラストランナーになってしまった」との指摘も耳にするが、ともかく各国が協調行動を起こさない限り、地球を破局から救えないとの決意が緊要だ。

 

「今ほど国際協調が必要な時代はない。負担の押し付け合いではなく、分かち合う関係をつくる。それには温暖化への行動が試金石になる。産業革命後、CO2を多く出してきた先進国が削減を率先すれば、事態は前へ進む。西側先進国の代表として生まれたサミットだが、『地球益』の調整者に脱皮する時期だ」(『朝日』7.10朝刊)。