池田龍夫/元毎日新聞・ジャーナリスト/クラスター爆弾廃絶に全力を

日本は先頭に立って世界を救え /08/07/01


クラスター爆弾廃絶に全力を

日本は先頭に立って世界を救え

 

池田龍夫=ジャーナリスト

 

 天高く“親爆弾”が炸裂、数百もの“子爆弾”が地上にばら撒かれる。ユーゴスラビア、アフガニスタン、イラク、そしてレバノン……と残虐きわまりない殺戮が跡を絶たない。無差別爆撃のあとには多くの不発弾が散乱、兵士より市民とりわけ子供たちの命を奪ってきた。対人地雷禁止条約(1999年発効)によって、国際的軍縮の扉が開いたと期待したが、「クラスター爆弾」という新兵器によって惨状は逆に拡大している。

 

 「大国のエゴをこれ以上放置できない」――クラスター爆弾の禁止・廃止を目指しアイルランド・ダブリンで開かれていた軍縮交渉「オセロプロセス」の国際会議は2008年5月30日、クラスター爆弾を事実上即時全面禁止する条約案を参加110ヵ国の全会一致で採択した。ノルウェーなど有志国とNGОが2007年、オスロで条約交渉を開始したため「オスロプロセス」と名づけられている。

 

 参加各国の軍事・防衛をめぐる思惑が交錯する中で、条約案をまとめ上げた功績は画期的だ。米国・ロシア・中国・イスラエル・パキスタン・インド・ブラジル各国は同会議に参加していないが、日・英・独・仏・カナダ・ノルウェー・スウェーデン・セルビア・レバノンなど110ヵ国が連帯して「全面禁止」を打ち出したことは高く評価すべきである。

 

 クラスター爆弾禁止条約骨子は「@攻撃対象識別機能や自動爆発装置などを備えた“最新式”爆弾の一部を除き、使用・開発・製造・保有・移転などを禁止、A原則8年以内に在庫を廃棄、B不発弾を10年以内に処理、C米国など非加盟国との軍事協力・作戦への関与を容認」などだが、参加国の合意取り付けのため、特に@とC項目が盛り込まれた。全面禁止に難色を示していた日本は、付帯条項を確認したうえで福田康夫首相が“ゴーサイン”の政治判断を下した。12月3日にオスロで署名式が開かれ、30ヵ国が批准した段階で条約は発効する。

 

廃絶を訴え続けた『毎日』の姿勢を評価

 

 「毎日新聞は、日本が禁止条約賛成に踏み出すよう求め、福田康夫首相の政治決断を促してきた。政府内の反対論を抑えて禁止に賛成した福田首相の判断を評価したい。姿勢を示した今こそ、日本は世界の先頭に立ってクラスター爆弾の廃絶運動を率いる決意を示してほしい。…まず、条約により、使用も保有も禁止される自衛隊のクラスター爆弾すべての廃棄を発表し、早急に実行すべきだ。

 すでに英独仏は自国のクラスター爆弾廃棄を表明している。日本政府は、敵の上陸侵攻を防ぐ抑止力として保有すると説明してきた。日本本土を攻撃する敵国は、クラスター爆弾を恐れて上陸作戦を思いとどまるだろうか。住民の避難や不発弾の除去が完全に行えるかも疑問だ。クラスター爆弾は広い地域を制圧するため、軍事目標と市民を区別しない無差別の攻撃兵器だ。条約に参加する以上、全廃を前倒しで始めるべきだ。

 1997年採択の対人地雷禁止条約でも、日本政府には慎重論が強かったが、小渕恵三外相(当時)の判断で、方針を変え署名した。保有していた地雷100万個をすべて廃棄し、各国の地雷除去を助け、被害者支援を続けてきた。…対人地雷禁止条約の締結国が156ヵ国となり国際ルールとして定着すると、地雷は持っていても使えない兵器となってきた。米国もイラク戦争でクラスター爆弾は使ったが地雷は使わなかった。クラスター爆弾を世界中で実質的に使えない兵器とする取り組みを日本は推進してほしい」。

 

 「今こそ日本は廃絶の先頭に」と題した毎日新聞の社説(5.31)は非人道兵器の罪悪を余すところなく糾弾、「無差別爆撃から市民を守れ」と訴えており、力強い決意がにじみ出ていた。

 

 『毎日』はここ数年クラスター爆弾廃絶キャンペーンを展開しており、〈STОPクラスター〉と題する連載は注目を集めている企画だ。6月1日からは「第11部 条約案採択の陰で」を掲載。朝刊一面トップに掲げた

 

 「1通の手紙が、オスロ・プロセス参加国を震え上がらせた。手紙は、米軍との共同作戦に支障を与えない条約にしてほしい、との趣旨を伝えていた。送り主はライス米国長官。

 5月初め、北大西洋条約機構(NATО)諸国に出した。複数国によると、書簡は『爆弾の製造や貯蔵』『(あらゆる)使用への支援』を禁じる2項目の削除を求めた。…米国には禁止条約で『米兵の命が危うくなる』危機感がある。圧力は焦りの裏返しだ」(続き物・上)

 

との指摘は、米国の焦燥を裏書きする記述だった。

 

 先に紹介した条約骨子を点検すると、全会一致を取り付けるため妥協があったことは明らかで、“最新型”爆弾の容認と、米国など非参加国との軍事共同作戦容認条項の追加によって、日英独仏など慎重派が条約賛成に踏み切るきっかけになったことは確かだ。“妥協の産物”とはいえ、「悪魔の兵器」追放への突破口を開いた意義は絶大。今後は日本が先頭に立って非参加国に対し“廃絶圧力”を強めていく独自外交が望まれる。

 

 在京6紙朝刊(5.31)がそろって一面トップに扱う大ニュースと思っていたが、産経と日経が5、6面に報じたのは意外だった。また、5紙が論説で「福田首相の決断」を一応評価し、“廃絶”への努力を訴えていたのに対し、産経だけ真っ向から批判する主張を展開していた。「どうする安全保障の空白」と題し、「海岸線で敵を撃退する唯一の防御兵器を廃棄することは、日本防衛に禍根を残す」と述べていたのは、軍縮努力に背を向けた余りにも独善的な主張ではなかろうか。

 

軍事大国のエゴ封じ込め

 

 国際的NGОヒューマン・ライツ・ウオッチの調査によると、クラスター爆弾は75ヵ国以上が備蓄し、このうち日本を含む35ヵ国で120種類を製造しているという。日本が保有している爆弾は四種類で、調達総額は276億円。廃棄費用は「空自だけで約100億円要する」(田母神俊雄航空幕僚長の話)とのことで、陸自を含めた廃棄費用も膨大だ。

 

 NGОハンディキャップ・インターナショナルによると、1965年以降、世界で少なくとも約4億4,000万個の子爆弾が落とされた。5〜40%が不発で確認された死傷者数は1万3,306人だが、10万人以上の推計もあり、保有75ヵ国のうち14ヵ国が、この残虐兵器を使ったという。

 

 クラスター爆弾の生産・保有国の米国(子爆弾を約10億個保有)やロシア・中国・イスラエルなどは「オスロ・プロセス」に参加せず、実効を危ぶむ声もあるが、「クラスター爆弾禁止条約が発効し、世界の大半が国が参加すれば,保有国への圧力になり、やがては全廃につながることが期待される」(朝日社説)わけで、「対人地雷禁止条約」の前例が示すように、保有大国暴走の歯止めとなり、使用できなくなるに違いない。

 

 「日本は国際会議直前まで消極姿勢に終始していた。米国なども参加する特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)での協議にこだわったからである。しかし、CCWが進展しないために始まった会議だ。リーダーシップをとれず、対米追随という印象を与えたとしたら残念だ。12月の調印式に向け、日本はもっと存在感を示したい。先ず自衛隊が保有する数千発の廃棄を急ぐべきだ。

 有事が念頭にあるにしても、侵攻阻止のためクラスター爆弾を国内で使うのは現実的ではない。不発の子爆弾除去のために、培ってきた地雷の探知技術活用も大切だ。医療、リハビリなども技術支援ができる。非参加国への呼び掛けも条約の柱だ。世界の大多数の国が保有せず、開発せずの意思を示した。その意思を力として、米国、ロシア、中国など軍事大国へ働き掛けを強め、クラスター爆弾廃絶への一歩としたい。それが日本の国際貢献だろう」(中国新聞6.1社説)

 

 「日本は大量破壊兵器などの軍縮や拡散防止に協力してきた。想起すれば、小型武器問題について国連での政府間専門家会議の議長国を務めるなど国際的枠組みづくりに貢献している。日本の禁止条約加盟を非政府組織も評価している。すべてのクラスター爆弾保有国に対し、この条約に加盟するか、少なくとも国際世論を尊重して廃棄に向けて協力するよう日本政府は主導的役割を果たすべきだろう」(東京新聞5.31社説)

 

との指摘は尤もだ。沖縄県の2紙が、特に「米空軍嘉手納基地でのクラスター爆弾配備」に警告を発した視点にも共感を深めた。