池田龍夫/ジャーナリスト/日米関係負の連鎖=c「ねじれ国会」と福田政権08/01/01
日米関係負の連鎖…
「ねじれ国会」と福田政権
「安倍晋三首相誕生から三カ月、新年を迎えた
安倍丸≠ヘ何処へ針路を定めるのだろうか」と本欄に書いたのは、一年前の新年号だった。安倍首相の政権投げ出しの後を継承した福田康夫首相は、奇しくも政権誕生から三ヵ月。2008新年の船出となったが、濃霧≠ヘ立ち込めたまま。「新テロ対策特別措置法案」の迷走に加え、「福田・小沢大連立=v狂騒劇もあって、前政権を上回る不安の影を落としている。
昨年七月参院選の民主党大勝利によって衆参ねじれ現象が生じ、福田新政権の政局運営はギクシャクしているが、これは直近の国政選挙の民意であって、「国会審議の停滞」を誇大に憂慮し、非難するのは筋違いであろう。
従来の「テロ対策特別措置法」が、野党優位の参院で否決されて失効(昨年十一月一日)。9・11テロ以降六年間も続けてきたインド洋上給油が打ち切られ、海上自衛艦が帰国したことは極めて異例な事態。政府提案の給油延長が国会で認められず、政策変更して米国の継続要請を断ったことは、戦後日本政治にとって稀有な現象である。
「給油は国際貢献の一環」…「国連決議がないまま自衛艦を海外派遣したことこそ違憲」との両論は平行線のまま。「日米同盟のほころび」を憂慮する福田首相は、十一月の日米首脳会談で厳しい局面に立たされたようだ。
米国産牛肉、「思いやり予算」で譲歩
防衛利権に絡む守屋武昌・前防衛事務次官逮捕もあって、昨年末の国会は防衛省(自衛隊)絡みの攻防が焦点になってしまった。年金・薬害肝炎問題、進まぬ特殊法人改革、低所得層と格差社会…等々、重要案件は目白押しだが、どれ一つ未処理のままとはひど過ぎる。
安倍退陣の経緯を探ると、八月のAPEC首脳会議で、「インド洋給油継続に職を賭す=vとブッシュ米大統領に約束したことに遠因があるようだ。先の福田・ブッシュ会談では「同盟強化で一致」と取り繕っているものの、米外交のしたたかさが透けて見える。
「北朝鮮のテロ支援国家指定解除のほか、自衛隊の給油再開、米軍駐留経費の日本側負担(『思いやり予算』)の改定、さらに牛肉問題と、両国間には難問が山積だ。心配なのは@北朝鮮問題で置き去りにされたと日本の世論が硬化→A給油再開や『思いやり予算』がつまずく→B米が日本不信を募らせる――という負の連鎖だ」という指摘(朝日11・18朝刊)の通りで、福田内閣もまた「日米同盟」の言われなき圧力に苦しみ、その解決が主要な政治課題となっている印象である。
臨時国会を一月中旬まで再延長し給油再開の「新テロ特措法」成立に福田首相がこだわったのは、「日米関係負の連鎖=vに困惑していたからだったと推察できる。
しかし、米国は「給油継続」を要請しているものの、最優先課題とは考えていないとの分析の方が当たっていると思われる。米国側にとっては、給油継続以上に@米国産牛肉の輸入緩和A駐留米軍「思いやり予算」の維持B米軍再編(海兵隊の一部グアム移転等)などの処理が喫緊の外交案件だったと思われる。
米国産牛肉輸入について日本政府は、BSE対策のため「生後二十カ月以下に限る」との枠をはめており、月齢制限の撤廃を求める米政府と厳しい折衝が続いていた。結局、「月齢制限を三十カ月未満に緩和する」と日本側が譲歩、日米次官級経済対話(12・7)で決着した。
「思いやり予算」削減交渉は、今回も米側の厚い壁に阻まれてしまった。二〇〇七年度の「思いやり予算」は二一七三億円。日米地位協定に基づくものと特別協定による負担の二種類で構成されているが、日本側が特別協定分約一四〇〇億円の光熱水費二五〇億円の大幅削減を求めていた。
しかし、これも米側のゼロ回答≠ノ近い額で妥協に追い込まれた。三月末協定期限切れ以降の延長期間は三年。十二月十日の合意内容は「〇八年の光熱水費予算は現状のまま。〇九年度、一〇年度は各二億円減額する」という小幅減額≠日本側が呑まされた形である。
「思いやり予算」そのものが、不条理な対米支出との批判を長年浴びてきたのに、見直しが一向に進まないばかりか、恩恵に浴している米側が聞く耳を持たず既得権にしがみついているのが実態だ。一九七八年以降の累積支出は五兆円を超す膨大な額だが、国民大多数はこの基地負担の無謀さに気づいていない。
さらに、普天間飛行場の名護市移転、海兵隊のグアム移転などを決めた「米軍再編」の行方も気がかりだ。米軍再編に伴う日本側の負担総額は三兆円とも伝えられるなど、日米協力の名のもとに日本側の財政支出は膨らむ一方である。
外務省は「インド洋給油中断が対米交渉のマイナスになった」と弁解するが、「米国の外交テクニック」に翻弄されっ放しの現状は嘆かわしい限りだ。
新聞各紙が、テロ特措法や防衛省スキャンダルの動きを追うのは当然だが、問題の背景を探り、分析する紙面展開が不足していなかったか。またテロ特措法以外の重要課題が山積していたのに、その報道が十分でなかったことは、先に例示したケースを振り返ってみれば明らかであろう。
「討議型デモクラシー」の確立を
「ねじれ国会」が与野党審議に緊張感をもたらし、防衛利権や年金行政などのズサンな実態があぶり出されてきた。停滞が危ぶまれた法案審議も次第に進み、先月中旬時点で「改正被災者生活支援法案」など十法案が成立。「政治資金規正法改正案」などを加え、計二十一件の法案成立が見込まれている。
世間を驚かせた「自民・民主大連立」は幻に終わったものの、その狙いが「ねじれ国会の手詰まり解消」にあったことは明らかだ。五五年体制で権力をほしいままにしてきた自民党の焦燥がみてとれるが、議会制民主主義の原則を尊重して衆知を集めることこそ議会活性化の道であろう。
篠原一・東大名誉教授が「国会に討議型のデモクラシーを」と題し、ねじれ国会を前向きに受け止め、今後の議会運営に期待を寄せた一文は示唆に富む指摘なので、参考に供したい。
「ねじれ国会の下では、与野党が徹底的に『討議』を重ねなければ政策が実行されないという状況が出現した。単なる多数決によっては進まない事態が発生したのである。インド洋の給油問題にせよ、年金政策にせよ、農業問題にせよ、与野党の意見は対立している。
その問題の調整と解決は必ずしも容易ではないであろう。繰り返し討議することによって合意を得る、少なくとも合意獲得のために努力する以外に方法はない。どうしても合意を得られない問題に対しては、暫定的措置として多数決の方法に訴えることはやむを得ないであろう。
しかし、議案の一部が妥結することによって和解の気風が醸成され、対立それ自体が緩和される可能性がある。これを、討議デモクラシーでは、相互性に基づく『和解』の原則という。
これがデモクラシーの本来の姿である。…あるべき政党制はともあれ、現実にいま、具体的な政策の突き合わせと討議をしていかない限り、政治が動かないという状況が到来した。そしてインド洋における給油問題の詳細や年金の資料なども、ねじれ国会であるからこそ明らかになった。日本のように政党制がまだ十分に成熟していない状況の下では、デモクラシーの発展のためにむしろ恵まれた条件が形成されたと言わねばならないであろう」
(月刊誌『世界』08・1号)
この点に関し、東京新聞社説(12・9)の明快な一文にも共感したので、紹介しておきたい。
「状況が一変した今も、『給油できないと国益を損なう』『法律が国会で成立しないのは国難』などと言葉を操り、政治を動かそうとする人がいます。『だから大連立だ』と現実に政治が動きかけました。しかし、『給油に国連決議が必要だ』と原則にこだわる民主党を、参院の多数党にしたのは国民です。それを無視して国益論、国難論を振り回すのは民意否定です。国民の意見から離れた国益はありません。
驚くべきことに、大連立に向けた舞台工作の主役は読売新聞主筆の渡辺恒雄氏だといわれます。対象を公正、客観的に観察して国民に報告する使命を負ったジャーナリストが自らニュースの当事者となり、マスコミの影響力を背景に密かに政治を動かそうとしたのは、ジャーナリズムとして邪道です」
ともかく新年の政局は波乱含みで、「解散→総選挙」の波が福田丸≠揺さぶるに違いない。新聞は本来の使命に立ち返って、権力の監視を強めねばならない。(池田龍夫=ジャーナリスト) このページのあたまにもどる