池田龍夫/ジャーナリスト・元毎日新聞記者/原発事故収束のメド立たず―核のゴミ捨て場決まらぬ不安 13/05/01

    原発事故収束のメド立たず―核のゴミ捨て場決まらぬ不安

                         池田龍夫 ( ジャーナリスト ・元毎日新聞)

 福島第1原発事故から2年余。1日約3000人もの作業員が懸命に廃炉作業を続けているが、1~4号機の高い放射線量が作業を阻み、見通しは依然立っていない。事故1年半後にようやく原子炉建屋に作業員が入れた。つい最近も放射能汚染水が激増し、その処理方法は確立していない。4月5日の汚染水漏れは120㌧と最大の量だ。このほか外部配電盤へのネズミ侵入による停電など、いまだにトラブルが相次いでいる。

  危険な安倍政権の原子力政策
  日本全国に今ある原発に40年規制を適用しただけでは2030年1月時点で20基が、40年時点でも5基が残る計算になる。
  野田佳彦前政権は30年代に「原発ゼロ」としつつ、使用済み核燃料を再処理して再び利用する「核燃料サイルク」の継続を打ち出した。再処理で発生するプルトニウムは兵器に転用できるから、米国はプルトニウムの蓄積を問題視。野田政権は壁に突き当たり、安倍新政権の原発政策は、さらに頼りにならないどころか危ない。懸案事項は次世代に先送りとの印象である。
  焦点となるのが、プルトニウムを混ぜたMOX燃料を使うプルサーマル炉だ。肝心の高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)はトラブル続きで、お先真っ暗。青森県六ケ所村再処理工場には全国から持ち込まれた廃棄物処理が限界に近づいているという。従ってもんじゅは実質断念に追い込まれ、政府の決断が迫られている。
  安倍政権は当面のデフレ対策をはじめ憲法改正、原発推進など矢継ぎ早に政策転換を発表した。具体的な見通しを示さず、ヤミクモに突っ走る安倍政権の原子力政策は極めて危険と言わざるを得ない。
  超党派国会議員による「原発対策国民会議」(11年4月20日に設置)は、原発事故後わずか数時間でメルトダウン(核燃料の溶融)が起きたことを指摘し、政府と東電の初期対応のズサンさを追及した。また、冷温密封いわゆる「石棺化」も提案したが、政府は耳を貸そうとしなかった。

 〝仮免許〟の大飯原発がなお動く不思議
  大飯原発3、4号機は、福島原発事故で全原発が停止して以降、12年7月1日に再稼働した最初の原発である。福井県おおい町にある関西電力の発電所で、同電力が保有する原発としては最大規模。日本の原発では東電の柏崎刈羽原発に次ぎ、第2位の発電量がある。
  この大飯原発は昨年7月、野田政権が突如再稼働を決めたもので、いわば仮免許中の原発だ。周辺には活断層が存在する疑いがあり、運転には本来、原子力規制委の〝お墨付き〟が必要だ。
  規制委の新安全基準は今年7月に施行の予定だ。ところが大飯原発3、4号機については、定期検査で止める9月まで運転継続を認める。この方針は3月10日の規制委定例会で田中俊一委員長が私案として示したものだった。同原発周辺は活断層の疑いが濃く、新安全基準によって再稼働を判断すべきである。
  今回、大飯原発を7月に止めると、今後新たな安全対策を求めるたびに、全ての原発を止めなければならなくなってしまう、という理屈に基づくもののようだ。安全性優先からみて、おかしなへリ屈ではないか。

 規制委に有形無形の圧力
  参院は2月15日の本会議で、政府が事後承認を求めていた原子力規制委員会の田中委員長と委員4人の国会同意人事案を可決した。衆院は14日の本会議で同意しており、田中委員長らは昨年9月、原子力規制委設置法の例外規定で就任して以来、約5カ月を経て国会の正式承認を得た。
 独立性の強い三条委員会と位置付けられた原子力規制委の責務は極めて重い。当面の原発再稼働の安全性を判断しなければならないからだ。ところが、活断層調査などをめぐって電力会社とのにらみ合いが続いているようだ。
  日経新聞4月17日付朝刊は次のように指摘する。
  「大地震を招く可能性がある活断層は、原発再稼働の道を閉ざす強力な要因だ。政府は活断層が真下を走る原発の稼働を認めていない。一方で原子力規制委の動きの鈍さが目立つ。現地調査は予定通り進まず、活断層を問題視する年代は10日に出た規制基準案も曖昧さを残した。判断や作業の遅れに対し、7月の参院選の影響を挙げる声が出ている。(略)規制委は日本原子力研究開発機構もんじゅ(福井県)関西電力美浜(同)など12年度中に計6施設で活断層の有無を調べる方針だった。現時点で着手できたのは関電大飯(同)、東北電力東通(青森県)、日本原子力発電敦賀の3カ所にとどまる。敦賀と東通は活断層の可能性を指摘したが、最終報告は出ていない。(略)ところが関電や原電、北陸電の事前調査は進まず、規制委への報告は7月以降になる公算が大きい。経済官庁幹部は『7月といえば参院選。電力会社は自民党が勝てば再稼働の気運が高まるとみているのではないか。(空気の変化を期待した)牛歩戦術だ』と推し量る。(略)『右から左から、上から下からいろんなことを言ってくる方はいっぱいいる』。田中俊一委員長は3日の記者会見で語った。原発稼働ゼロを掲げた民主政権時に比べ有形無形の圧力は規制委にかかる」
  まことに恐るべき政治権力の介入ではないか。

  評価できる審議過程の公開
  毎日新聞2月15日付朝刊は、「田中氏は規制委の独立性を重視する立場で、原発の安全性に厳しい目を向ける。政府・自民党は再稼働が遠のきかねないことを懸念しながらも、差し替えによる批判や混乱を回避するため、消極的支持を選択した」と分析していたが、各党とも対応に苦しんだようである。2人の自民党衆院議員が、党の同意方針に反発して採決を欠席。再稼働に厳しい田中規制委に対し、原発立地県の福井、新潟の2議員が反発したものだ。日本維新の会も同意したが、石原慎太郎共同代表と平沼赳夫・国会議員団代表の最高幹部が「党としては賛成したが、議員個人としては反対」と棄権する始末。即〝脱原発〟を掲げる共産・社民両党の反対は分かるが、生活を守る党が同意しなかった理由が分かりにくい。
  毎日新聞2月19日付社説も「規制委はこれまで、意思決定過程を透明化し、安全基準作りや原発の活断層調査で、審議過程を公開してきたことは評価できる。規制委と事業者が議論を闘わせることは、水面下で意見をすり合わせるよりも、よほど健全なことだ」と述べている。
  東京新聞も同日付社説で「いま策定中の新たな原発規制基準は相当に厳しい。再稼働を急ぎたい自民党内の勢力にとっては不満が募り、委員の差し替えを求める声が出たほか、国会採決では党の方針に反して棄権者も出た。規制委は気をつけないと、7月までの規制基準づくりの中で規制を骨抜きにする『猶予措置』の拡大や、運用面の抜け道を求める圧力が強まる可能性は大である」と警告している。
  〝本免許〟となった規制委はいま一度「何ものにもとらわれず、科学的・技術的な見地から、独立して意思決定を行う」とうたった原則を見つめ直し、初心を貫いてほしい。
  規制委が4月10日、新しい規制基準案を了承した。「世界レベルに近い基準になった」と田中委員長は同日の記者会見で胸を張った。新基準には、既設原発にも安全対策を義務づける「バックフィット制度」が盛り込まれた。新基準の導入によって凍結されていた原発再稼働の受け付けが再開される。経済産業省によると、電力9社の原発は運転しなくても年約1兆2000億円がかかる。
  新基準は意見公募を経て、7月に施行される。活断層の疑いなどで新基準を満たせない原発が出るのは確実だが、問題は、事業者以外に廃炉を決定できないことになっていること。政府は事業者まかせにせず、「駄目な原発」を処理する枠組みづくりを急ぐべきである。
 使用済み核燃料の中間貯蔵施設、最終処分場、たまり続けるプルトニウムには米国、ドイツ、フランスをはじめ北欧各国も困り果てている。唯一フィンランドが地下に巨大な穴を掘って、核のゴミ処理を始めた。「原発ゼロ」を志向する政策転換を、安倍政権に強く望みたい。
                      (「メディア展望」・プレスウオッチング5月号より転載)