普久原 均/ジャーナリスト/ パトリオット配備強行 、米軍再編の実施始まる  /06/10/05  


パトリオット配備強行  米軍再編の実施始まる

                       普久原 均 (ジャーナリスト)

 在日米軍再編で揺れる沖縄で、米軍は10月1日から陸軍地対空誘導弾パトリオット・ミサイルの配備に向け、関連物資の嘉手納基地への搬送を強行した。再編の日米合意に盛り込まれた項目の中で実施に移されたのは、これが初めてだ。
 配備は嘉手納町、沖縄市、北谷町の地元三市町がこぞって反対する中、強行された。米軍再編のうち、初めて実現したのがミサイル配備だったことは象徴的だ。政府は「抑止力維持」と「地元の負担軽減」が米軍再編の二本柱だと強調してきたが、負担軽減が実は後回しで、むしろ負担増となる機能強化の側面を優先していることを示している。
 政府は「専ら防衛的なシステムだ」(那覇防衛施設局)と強調するが、保守系の宮城篤実嘉手納町長ですら、「配備が県民を守るためとは誰も思っていない。基地を守るためにすぎない」と非難した。
 

パトリオット配備に先立つ9月25日にも大きな出来事があった。米軍普天間飛行場移設へ向け、那覇防衛施設局は名護市教育委員会とともに米軍キャンプ・シュワブ内の埋蔵文化財調査を強行、阻止しようとした反対派の平良夏芽牧師が公務執行妨害で逮捕されたのだ。二日後には釈放されたが、世論調査で七割以上の県民が反対する中でも移設を強行しようとする政府の姿勢がここでも浮き彫りになった。
 一方、米軍再編をめぐる沖縄県と政府の関係は微妙な対立感情を今もはらんだままだ。政府内でも、強行突破の構えの防衛庁と、地元との協調を重視する内閣府は微妙な関係で、必ずしも一枚岩ではない。同様に、普天間移設の政府案への反対を続ける沖縄県と、滑走路の長さを除けば容認の構えの名護市も意識のずれが目立つ。8月末の普天間飛行場移設措置に関する協議会(移設措置協議会)の設置をめぐるドタバタ劇は、それを象徴していた。
 

火種は在日米軍再編をめぐる5月末の閣議決定に潜んでいた。5月中旬に額賀福志郎防衛庁長官と稲嶺恵一知事が交わした「基本確認書」で、政府は閣議決定の際には事前に地元と協議すると約束していた。沖縄県は、「事前協議」という以上、沖縄側の意見を取り入れると思い込んでいた。
 V字形滑走路を設置する政府案を「決め打ち」とする形にはせず、あいまいにし、県が求める暫定ヘリポート設置案も検討対象にすると読める玉虫色の文言を想定していたのだ。だが、発表された閣議決定はどこをどう読んでも、政府案をそのまま実現するという文言。県側の幸福な錯覚は打ち破られ、県幹部は「額賀長官にしてやられた」と唇をかんだ。
 以来、県側は防衛庁側の口約束は信用しないとの構えを取った。だから移設措置協議会の設置の際も、暫定ヘリポート検討を意味する「普天間飛行場の早期の危険性除去」の文言を設置要綱に入れることにこだわり、それが明記されなければ協議会に参加しないと言い続けた。
 一方、防衛庁は、実現性のない県の暫定ヘリポート案の可能性もあるとの誤解を県民に与えかねないとして、そうした文言の挿入を拒否し、設置を強行する構えをみせた。
 

北部振興策の扱いも焦点だった。北部振興策は、普天間移設の従来案を決めた1999年末の閣議決定で制度化されたが、政府の本音はともかく、建前は「地域の均衡ある発展のため」の制度化であり、当時の政府は「基地とのバーター(取引)ではない」と言い続けた。だが今回、政府は5月末の閣議決定で、県や名護市の反対に耳を貸さず、一方的に廃止を決めた。
 県はそこで名護市と共闘、北部振興策復活の明言がなければ協議会に参加しないと打ち出した。5月末の閣議決定で「県や名護市との協議」とうたっただけに、地元の参加がないと協議会設置は事実上不可能。県が「参加」を人質に取った形だった。
 一方、防衛庁は基地建設を担保するため、振興策は移設事業の進ちょくに応じて支出する「出来高払い」とする考えを崩さない。防衛庁と沖縄側が綱引きを続け、内閣府は沖縄側の主張に理解を示すという構図だった。
 綱引きは8月29日の協議会開催直前まで続き、稲嶺恵一知事と島袋吉和名護市長は朝まで不参加の構えだった。予定の時間が過ぎても各大臣が列席して開催を待つ異様な光景が続いた。だが最後は官邸が仲介し、小池百合子沖縄担当相が北部振興策の継続を約束する形を取り、約一時間遅れで瀬戸際の開催となった。
 

だが内閣府は北部振興策を従来通り継続すると言明し、県も継続との認識なのに対し、協議会発足後も防衛庁はあくまで基地建設と結びつける考えを強調。同床異夢を地で行く成り行きとなった。表面上は移設へ進んだ形となったが、根本的な対立は解けないままだ。
 県の暫定ヘリポート案についても、防衛庁にまともに取り合う気配はない。
 ただ、この県の案も、知事サイドが「政府案を丸のみするわけではない」「現実的解決を模索する」との証を立てるために提示した案であり、県民の希望を反映したとは言いがたい。事実、各種の県民世論調査では県の案に賛成する人の割合は一ケタにすぎない。政府も県も、こと普天間移設に関しては、県民の希望と懸け離れた態度を取り続けているのが現状だ。
 政府は当面、11月19日投開票の沖縄県知事選まで協議会の開催は見送る構えだ。いわば火種は後回しにした格好だが、10月中には普天間代替施設の建設計画を策定し、年内には環境影響評価(アセス)に入る予定は変えていない。いずれ再燃するのは時間の問題だ。
 

その県知事選挙に、保守陣営は県商工会議所連合会前会長(前沖縄電力会長)の仲井真弘多氏の擁立を決め、稲嶺知事の後継者を前面に打ち出した。一方の革新陣営は沖縄の地元の政党である社会大衆党所属の参院議員・糸数慶子氏の擁立を決めた。事実上の一騎打ちとなるのは、大田昌秀前知事と稲嶺氏が争った1998年以来のことだ。
 仲井真氏は四日現在、普天間移設の政府案に対する態度を明らかにしていない。一方の糸数氏は県内移設拒否を明言している。基地問題の帰趨も占う政治決戦となるのは必至だ。県民はもちろん、中央の政府・与野党もその結果を注視している。

(了)