普久原 均/ジャーナリスト/ 米軍再編で揺れる沖縄/06/04/22   


         米軍再編で揺れる沖縄

                          普久原 均(ジャーナリスト)

 3月後半から4月にかけ、在日米軍再編をめぐり沖縄は大揺れに揺れた。普天間飛行場の移設問題で、政府は滑走路を二本にする奇策を打ち出し、半ば押し切る形で地元名護市の合意を取り付けた。奇策は世間をあっと言わせたが、沖縄県民の反発は根強い。次の焦点は稲嶺恵一知事が合意するかどうか。5月初旬にも予定される再編の最終報告に向け、稲嶺知事の動向に注目が集まっている。

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防衛庁高官らの地元切り崩し、老獪な策略

 島袋吉和名護市長は「(普天間飛行場移設先をキャンプ・シュワブ沿岸部とする)沿岸案は拒否する」との選挙公約を掲げ、1月に初当選を果たした。当選以来、「沿岸案を前提とした政府との協議には応じない」と述べていたが、市長選で政府・与党の全面支援を受けていたこともあり、その姿勢を続けるかどうか、当初から疑問視されていた。

 案の定、表向きの対決姿勢とは裏腹に、実は1月から3月前半にかけ、水面下で額賀福志郎長官ら防衛庁の高官らとひそかに接触していた。

 

 この間、防衛庁高官は、北部振興事業の打ち切りも示唆していた。2000年度から続くこの事業は、年間百億円の予算が名護市を含む沖縄本島北部に落ちる仕組みだ。その予算の打ち切りは地元にとっては大打撃となる。名護市側がひそかに接触した背景にはそうした事情もあった。

 だが、辺野古区など地元集落との距離が近い沿岸案は簡単にはのめない案だ。地元選出自民党国会議員らも、従来の辺野古沖案を地元に断りなく破棄して沿岸案に決めた防衛庁を快く思っておらず、市長に対し、安易に合意しないよう釘を刺していた。辺野古区などの反発ももちろん強い。こうした内外の圧力もあり、名護市は、接触したとはいえ、基地を集落から離れた沖合いとするよう防衛庁に求めていた。

 こうした水面下の動きが表舞台に移ったのは3月21日。島袋市長らが防衛庁を訪れ、正式に交渉を始めたのだ。防衛庁の強引な求めにしぶしぶ応じた形だった。

 防衛庁がなりふりかまわず市との交渉を始めたのにも理由がある。

 3月末とされた米軍再編最終報告の期限に向け、日米安全保障協議委員会(日米外務・防衛閣僚会談=2プラス2)を開きたい防衛庁に対し、米側が「普天間移設で沖縄の同意が得られていない」ことを理由に開催を渋ったからだ。

 最終報告には在沖縄米海兵隊のグアム移転経費の日本側負担について明記しなければならない。この負担は大きな財政支出を伴うため、防衛庁としては事務方だけの取り決めにはできず、是が非でも2プラス2を開く必要があった。それを米側に「人質」に取られた格好だ。

 当初、防衛庁は「基地建設では、沖縄県や名護市は何の頼りにもならない」とみて、地元同意がないまま見切り発車する構えだった。

 だが昨年10月末の日米合意(いわゆる「中間報告」)では、米国や外務省が普天間代替施設を辺野古沖の海上に造る案(浅瀬案)を求めたのに対し、防衛庁は「地元説得は我々が責任を持つ」と大見得を切り、沿岸案で押し切ったいきさつがある。地元の同意を求める米側の指摘は痛いところを突いた形だった。

 そこで防衛庁は、同意が難しい県を避け、外堀を埋める形でまず名護市を陥落させようとした。

 だが名護市も抵抗した。3月21日、22日、25日、26日と立て続けに行った交渉で、市は沿岸案を拒否し続けた。

 転機が訪れたのは27日。沿岸案に強い拒否を示していた岸本建男前名護市長が死去したのだ。地元では沿岸案拒否の空気が高まる。岸本氏の市民葬が4月2日に予定されたことを理由に、名護市は政府との交渉を先延ばしにしようとした。

 ここでまた、防衛庁は「まず外堀を埋める」手法を使った。

名護市周辺の四町村の首長に対し上京を促す。当初、首長らは日程などを理由に渋ったが、市町村長レベルで大臣から直接、強引に要求されると、断りきるのは難しい。面談(左写真)では「北部振興事業がなくなりかねない」との脅しめいた文句も飛び出した。結局、四首長は島袋市長に上京を促す役回りを引き受けることになった。

 

 

根強い地元の人たちの反発!

北部振興事業費打ち切りのおどしに勝てるか

一方で、28日の小泉純一郎首相や額賀長官、守屋武昌防衛事務次官らとの会合後、額賀氏は「(地元側が)話し合いのテーブルに着かなければ、政府の方針通り行くほかなくなる」と発言する。このままでは沿岸案を強行すると信じさせ、名護市を協議に引きずり出す作戦だった。

 4月4日、ついに島袋市長は上京する。そこでも決着しなかったが、さらに7日、上京し、防衛庁と協議を重ねた。

 この間、政府・与党内では「名護市が海上案にこだわるのは埋め立ての利権が狙いだ」という情報が流れていた。「司法機関が利権を摘発する」との情報まで流布した。このため名護市は、防衛庁との協議の中で「『はじめに海上案ありき』ではない」と言わざるを得なくなっていた。この結果、沿岸案反対の理由は「集落の上を飛ぶこと」に絞り込まれた形になった。

 その上で、防衛庁は7日、隠し玉として持っていた滑走路をX字の二本とする案を示す。それに抵抗した名護市に対し、さらにV字形の二本とする案(新沿岸案)を示した。反対の理由は上空飛行だけ、と確認させられていた名護市は、上空飛行を避ける新沿岸案を拒否する理由を失っていた

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 だが滑走路を二本にする奇策も、小泉内閣お得意のサプライズ効果は生まなかったようだ。4月中旬に実施した琉球新報社と沖縄テレビの合同世論調査では、新沿岸案を「高く評価」「どちらかといえば評価」とする意見の合計は26・8%にとどまったのに対し、「どちらかといえば容認できない」「絶対容認できない」の合計は70・8%に達した。島袋市長の判断についても「不支持」が59・0%と、「支持」の27・6%を大きく上回っている。

 

 こうした県民の反発をよそに、政府は5月2日にも開かれる2プラス2で米軍再編の最終報告をまとめ、新沿岸案を含む再編案全体を正式決定する見込みだ。そうなれば、沖縄本島中南部の大規模な基地返還も正式決定となり、その跡地開発や軍雇用員の解雇の問題なども目前の課題となる。財政余力のない沖縄県は、課題解決に政府の力を借りざるを得ない。今は沿岸案反対を維持している稲嶺知事も、政府との協調姿勢に転じざるを得ない。沖縄ではそんな見方も強まりつつある。