普久原均/ 『米軍再編―沖縄は「憲法番外地」だ!』 06/01/17

『米軍再編―沖縄は「憲法番外地」だ!』

普久原均(ジャーナリスト)

 そもそも沖縄に憲法は適用されているのか。

 憲法改定が取りざたされる中、米軍再編を取材する地元紙記者の私は、そんな疑問を禁じ得ないでいる。

 周知の通り、今回の米軍再編で沖縄の米海兵隊一万七千人のうち七千人のグアムへの移転が決まったが、普天間飛行場のヘリなど実戦部隊は沖縄にとどまることになった。世論調査で圧倒的多数の県民が県外・国外移転を望み、保守系の知事ですら県外移転を求めていたにもかかわらず。

 普天間の空中給油機こそ鹿屋基地への移転となったが、墜落事故を繰り返す肝心のヘリ部隊は県内移設となった。「ヘリは『空陸一体』が肝要だから、他の海兵隊の部隊と一体でなければならず、沖縄のどこかに置く必要がある」というのが政府の理屈だ。

 そもそもイラクへの攻撃に使ってきた海兵隊を日本に置くべきか疑問だが、「抑止力として必要」というのなら、「空陸一体」で国内のどこかへ置けばよい。だが今回、海兵隊を丸ごと本土へ移すことは、はなから検討もされなかった。

無視され続ける沖縄の意向

国防通を自称する学者は「中台有事に備えるため米軍を沖縄に置く必要がある」と言う。少し前までは「北朝鮮の不穏な動き」がその理由だった。冷戦時代の仮想敵国はソ連だ。

 ではソ連が脅威の対象だった時、沖縄の海兵隊の日本海沿岸への移転を検討したか。北朝鮮がミサイル発射実験を始めた時、九州北部への移駐を考えたか。

 米軍を沖縄に置き続ける事実と、何らかのそれらしい理屈を準備することは変わらず、理屈だけが変遷している。その理屈が本当のものでない証だ。

 政府のある高官は「本土はどこも反対決議の山だ。いったいどこに移転できるか」と本音を漏らす。しかし反対が強いのは沖縄も同じだ。移設の是非を決める際、本土では地元の意向を勘案し、沖縄では視野にも入れなかった。ダブルスタンダード(二重基準)と呼ぶほかない。

 実は、沖縄の海兵隊は1950年代後半まで岐阜や山梨にあった。本土から沖縄への移転はあっさり実現したのに、今回、沖縄から本土へ移す選択肢は検討すらされなかったということだ。「法の下の平等」はどこへ行ったのか。

 あまつさえ政府与党は、県知事が反対しても基地建設を可能とする法整備すら検討している。これでは「地方自治の本旨」は空念仏だ。沖縄に憲法の適用はないに等しい。

 今回の再編では沖縄の基地の訓練の一部が本土へ移転することになり、「本土の沖縄化」と称する人もいる。イラクで無辜の民を多数殺害した米軍の出撃拠点となった沖縄は、イラクの人々にとって「共犯」と言えるが、再編で日米の軍事一体化が進むことで、日本全体も「共犯」の立場を問われることになる。

 集団的自衛権を許容する憲法改定を待たずして、平和憲法の「番外地」は拡大しようとしている。

(了)