醍醐聡/東大教授/ 古森氏が問題にした国連憲章中の「敵国条項」の真相 08/04/10


 

古森氏が問題にした国連憲章中の「敵国条項」の真相

 

 

皆様

 

 


古森経営委員長が3月11日の経営委員会で、NHKの国際番組基準から国連憲章を
外す理由として挙げた「敵国条項」の今日における実効性について、あまり
知られていないように思われますので、多少の情報をお伝えいたします。

古森氏が言い出した「敵国条項」とは、第2次世界大戦における連合国の対戦国
だった日本・ドイツ・ルーマニア・ブルガリア・ハンガリー・フィンランドら
が国連憲章に違反する軍事行動を起こした場合、国連憲章第53条に定められた
安保理の許可なしに軍事制裁を課す事が出来ると定めた国連憲章第107条のこと
をいいます。しかし、今日、こうした条項は時勢に合わないとして、1995年の
国連総会において、同条項の削除を求める決議が圧倒的多数で採択されています。
ただ、安保理改組問題が難航したため、国連憲章の改正作業が遅れ、同条項が
削除されるには至っていません。

しかし、この条項について、1990年6月11日の安全保障特別委員会で外務省条約
局長(当時)の福田博氏は次のように答弁しています。赤字は私の追加です。
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第118回国会 安全保障特別委員会 第3号
平成二年六月十一日(月曜日) 福田博(外務省条約局長)

○福田(博)政府委員 先生の御質問は二点あるのではないかと思うのです。
一つは敵国条項というのが法的に我が国に適用される余地があるのかないのか
ということと、その問題を別としてまだ国連憲章に書いてあることは甚だ遺憾
である、その二つではないかと思われます。
 まず前者について申し上げますと、我が国は旧敵国条項はもはや我が国に適
用される余地はないという解釈を従来とっておりまして、一貫して国会でもそ
の旨お答えをしておるところでございます。
 その理由を法的に申し上げますと、国連憲章の旧敵国条項というのは、先ほ
ども説明がありましたが、第二次大戦後の経過的な規定として挿入されている
ものでありますが、我が国は国連憲章第四条に言う平和愛好国として国連に加
盟を認められております。したがいまして、国連加盟国としての権利義務を持
つことになるわけですが、その国連加盟国、ほかの国と我が国との関係という
のはいろいろな条文がございますが、例えば憲章第二条、なかんずく主権平等
の原則によって規律されることとなっております。したがいまして、法的にも
もはや我が国に対しては適用がないという考えでございまして、これは非常に
多くの国がそういう考えを持っているということが言えると思います。

 それから第二が、敵国条項が国連憲章にまだあることはいかがかというのは、
それはまさにそのとおりでございまして、過去一貫して我が国は、一番最初は
昭和四十五年、第二十五回総会でございましたが、これは国連憲章から削除さ
れるべきであるということを総会で主張いたしました。その後も一貫してたび
重なる機会に主張しております。いろいろな事情でまだ実現はしておりません、
そういう意味では国連憲章にこの規定そのものが残っているということは遺憾
な事態であると考えております。

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このような国連決議および福田局長の答弁に照らして、「敵国条項」は事実上、
死文化したものとみなされています。安保理改組問題が絡んで削除に至って
いないことをことさらに言い募って国連憲章全体を国際放送基準から排除する
よう求めるのは、あまりに論理の飛躍であることが理解できると思います。