桂敬一/日本ジャーナリスト会議会員・元東大教授/メディアウォッチ(特別版)憲法学習を草の根で広げ、自民党の改憲策動を粉砕しよう 13/03/20

kuruma

 

メディアウォッチ (特別版) 2013年03月20日

 

憲法学習を草の根で広げ、自民党の改憲策動を粉砕しよう

桂 敬一(マスコミ九条の会呼びかけ人・日本ジャーナリスト会議会員・元東大教授)

 安倍新政権は、総選挙前は「原発は自民党も長期的にはゼロを目指す」とぼかした言い方をしていたが、それで選挙に勝つと、「原発ゼロをゼロ・ベースで見直す」と言い出した。気の早い人は「やっぱりゼロだな」とわかってしまいそうだが、「ゼロ・ベース」とは「白紙に戻す」ということだ。その後は、電源を「ベスト・ミックス」で考える、と言い直したが、これは「電源の組み合わせ=ミックスに原発を含める」ということだ。 そして、点検中の原発の再稼働を決定、それどころか、新設や輸出にまで踏み切る方針を決めた。大方7割の国民が脱原発を望んでいる。そのため、7月の参院選までは、こうした方針を大きくは打ち出していないが、参院選で過半数を制したら、原発推進の方針を公然と政策化することは、間違いない。

 自民党のこうしたぼやかし、隠蔽のやり方で、もっとも見逃すことができないのが改憲の策動だ。現在、現行憲法の96条、改憲手続きを決めた条項だけを変え、将来の改憲に備えようなどと提唱、野党となった民主党の一部、維新の会、みんなの党、生活の党なども足並みを揃えつつあるが、自民党の本音はそんな生ぬるいものではない。7月の参院選において、与野党合わせて改憲賛成派で3分の2以上の議席がとれたら、強引に現行憲法全体を解体、一気にまるで違う憲法に変えてしまう案を、自民党はすでに2012年4月に作りあげている。改憲には衆参両院それぞれ3分の2以上の議席を得た勢力が改憲案を発議できる、とするのが現行憲法の規定(96条)だ。したがって、7月参院選で改憲連合がそうした数の議席を取ったら、すぐ自民党草案の具体化が図られるだろう。しかし、そうはいかない心配もある。そこで、この条件を緩和し、過半数で発議できるように96条をまず変えようという策動が、権力参加に血眼となる政治勢力各派に誘いをかけるかたちで、今始まっているのだ。

 この動きを軽視することはできない。油断していると、かねて安倍首相が執着や野心を隠さない「国防軍」の創設が、あっという間に進められてしまうおそれがある。そうなると、現行憲法の下での国民の三大義務(勤労、納税、子どもへの義務教育)は、「徴兵」が加わり、四大義務に変わるだろう。男性青年だけの問題ではない。恋人や夫、それに子どもを持つ女性にも、かつての戦争時代の境遇が、再び訪れる。さすがに新聞も、「国防軍」や、これに関係する九条(戦争放棄)の問題は少々報じ、論ずる。ところが、自民党改憲案は、そうした部分部分でヘンだ、オカシイといっていればすむ程度のものでは、もうない。そもそも、明治憲法が天皇主権を確立、その下で国民は「臣民」として国家に仕える、と定めるのを基本とするものだったのに対して、現行憲法=「新しい憲法」は、国民主権を高らかに謳い、国民個々がさまざまな基本的人権を行使するのを、国家は妨げてなならないと定めるのを基本とする、立憲主義の憲法だ。

 ところが、自民党の改憲案は、この国では「公益」(国の利益)と「公の秩序」が他のなにものに比べても優先され、これらに抵触する自由や権利の充足・行使は許さないとし、「国民はすべてこの憲法を守らなければならない」と規定するものなのだ。現行憲法の憲法尊重擁護義務規定(99条)が、「天皇及び摂政」「内閣総理大臣、国務大臣」「国会議員」「その他の公務員」に、国民主権の妨げになってはならないと命じ、彼らに憲法を守るよう義務づけ、縛りをかけるものであるのに対し、自民党案の憲法はその関係を、完全に逆転するものなのだ。しかも、「天皇」は憲法の冒頭で「元首」とされ、国側の関係者に護憲義務を負わせる現行条項から「天皇及び摂政」は除かれることとされている。これでは明治憲法の復活だ。これほどの問題を、新聞も雑誌も、テレビもろくに報じず、真剣な議論は何一つ起こっていないのが大メディアの状況だ。

 私たちは、いまから自民党の改憲策動について、大きな議論を起こす必要に迫られている。それが十分できれば、原発、沖縄の全島米軍再占領、TPP、消費税引き上げ・社会保障切り下げなどに反対する運動と一体になって、改憲反対、現行憲法を生かすたたかいを前進させ、自民党と改憲を策す政治勢力の野望を砕き、戦後民主主義を新しい次元でいっそう発展させ、東アジアの平和共存体制を確かなものとしていけるだろう。そうした思いから、以下に三つの資料をご紹介したい。これらをダウンロードし、さらにプリントにおこし、みなさんの会、グループでの討論や学習に、ぜひ利用していただきたい。

<資料1>自民党改憲草案と現行憲法の比較対照表
  表紙(PDF)と本文(PDF)に分かれています。合わせて一つとしてください。
自民党改憲案には、問題と思われる部分にアンダーラインを引きました。現行憲法の文中には、改憲案で消されるところ、改悪されるところを網掛けで示しました。両方を見比べながら、改憲案の問題点について検討を加えてください。

<資料2>戒能通孝氏の国会公述記録⇒PDF
  1955年、民主党と自由党が合体、自民党ができ、いわゆる55年体制を整えました。すると、自由党がかねて唱えていた「自主憲法」制定(担当主任は安倍首相の祖父、岸信介氏)が、自民党の運動課題とされ、翌56年に自民党は内閣に憲法調査会を設置し、そこで改憲を検討する、という議案を衆院に提出しました。そのための手続きの一環として衆院の内閣委員会は、賛否を異にする公述人を召還、参考意見を聴くことにし、社会党を中心とする野党側の公述人として弁護士の戒能氏が立ち、反対の立場からの公述を行いました。その国会議事録の抄録を紹介します。岸氏の孫、安倍首相も、政権与党の立場を利用し、政府主導の色の濃い改憲案を繰り出そうとしています。戒能公述人は、岸氏の反立憲的改憲策動を完膚無きまでに批判していますが、この論法は、岸氏の孫の企み、現在の改憲策動にもそっくり適用できるもので、実に新鮮です。小選挙区批判まで、今にぴったりです。ぜひご一読ください。

<資料3> 河北新報の2月23日社説⇒PDF
  全国紙は、読売、産経、日経の改憲派新聞が鮮明に自民党政権の改憲方針を支持するのに対して、一応護憲派の朝日、毎日でも、自民党改憲草案の根本的に危険な問題点には、鋭く迫る議論を行っていません。わずかに東京新聞がローカル紙という立場から批判を果敢に試みている程度です。ところが、仙台に本社を置く地方紙、河北新報(かほくしんぽう)は、真正面から現行の立憲主義的憲法の擁護を主張、これを覆そうとする企みに痛撃を加える批判を展開しました。                            (終わり)