桂敬一/メディア論(5)/ 格差社会はだれがつくったかに切り込む毎日の報道/ 06/03/31

 


格差社会はだれがつくったかに切り込む毎日の報道

 宮内規制改革会議議長が所属する勝ち組構造の解明に挑戦


桂 敬一(JCJ会員)


 

毎日新聞4月3日付朝刊1面に、連載企画報道「縦並び社会 第3部 格差の源流に迫る」の第1回が登場した。「規制緩和へ一直線」の見出しのもと、いまや小泉構造改革の最終仕上げの担い手になった観のある、規制改革・民間開放推進会議の宮内義彦議長(オリックス会長)を真正面からとらえ、格差社会を必然的に生み出してきた彼の役割を具体的かつ詳細に検証しており、読み応えがある。
 毎日も含めて全国紙のこれまでの姿勢は、歴代内閣が進めてきた規制改革政策がやがて構造改革と称され、小泉首相の郵政民営化がその中核的課題とされるや、その他の政策課題に関しては、彼の政治手法とともにいろいろ批判はするものの、こと構造改革に関しては全面的に賛成し、批判するとすれば、改革が遅い、改革の内容が具体的でない
、などの点を指摘する程度のものだった、といってよい。そして、郵政民営化、「9・11総選挙」で大勝した小泉政権が、ここにきて構造改革の総仕上げとして、公務員削減を目的とする「行政改革推進法案」と、公共(公務)サービスの市場開放・民営化を目指す「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案(市場化テスト法案)」
をうち出すと、どの新聞も、それらは当然なされるべき政治的事業であると受け止め、両法案の成立を支持し、それに基づく政策展開が始まるのを待っている感じなのだ。
 ところが、毎日のこの企画報道は、今回分はまだ連載の第1回目だから、今後どうなるかはわからない面もあるが、上記両法案に帰結していくさまざまな政策プランをつくり、政府にそれらの実現を促してきた宮内氏の規制改革の考え方や、政府に働きかけてきた彼の役割こそが、今日の「格差社会」を生み出すもっとも大きな動因となってきたのではないか、とする観点をうち出すものだったのだから、実に異色の報道であり、他紙の報道や論評が漫然と構造改革の総仕上げを見守る体のものなので、これらに対して も真正面から対峙するものだ、といえるように思える。
 宮内氏(写真)は、レンタル・リースのオリックスに入社、1980年に社長に就任、

ノンバンク方式の金融事業を開始、その後、プロ野球経営にも手を染めるが、91年に政府の行革関連審議会委員になってから、そのなかでしだいに発言力を強めていくとともに、自社の業域もどんどん拡大、ついに今日、連結会社182、関連会社81を擁する巨大グループの盟主となるにいたった人物である。手がける業種は、リース・金融のほか、不動産、保険、観光・レジャー、広告代理、投資・証券、信託銀行、人材派遣、情報システム、船舶運航など、実に多岐にわたる。
 (下写真左宮内オーナー)

 

そして彼は、この間、96年には橋本内閣のもとで規制緩和小委員会の座長に就任、その後、2001年には小泉内閣のもとで総合規制改革会議議長を務めるなど、切れ目なく審議会族をつづけ、今日の地位につながるわけだ。注目すべきは、彼の手がける事業の多くが、彼の所属する審議会が規制緩和、民間開放を進めていったフィールドに生まれてきたものである、という事実である。意地悪くいえば、彼は、新しい事業を考えながら、それを生み出すのに必要となる規制緩和をみずから考案することができた、あるいは、新しい規制緩和が実行される見通しをだれよりも先に情報として入手できる環境のもとで新事業の構想を練ることができた、といえるのだ。どうだろうか、これはある意味では、インサイダー取引のようなものではないか。
 彼のこのような地位の生かし方は、即違法行為とはいえないかもしれない。しかし、現実の問題として、このような宮内氏と、自分の経済的な、また事業家としての野心を 果たすために、政治家に無謀なかたちで接近、転落していったホリエモンとを比べてみたら、こちらのほうは、まるで子どものようにみえる。ホリエモンは、宮内さんだって やってきたことなんだから、オレも同じようにやったっていいじゃないか、と思ったこともあるのではないか。また、かつて自社の非公開株提供という手段で政治家や官僚、 マスコミ人に接近、事業拡大を図り、蹉跌を味わうことになったリクルートの江副浩正会長さえ、宮内氏に比べたら可憐にみえる。さしずめ、宮内氏が勝ち組で、江副氏、ホ リエモンは負け組といったところか。
 ようやく新聞が、格差社会のことや負け組のことを、紙面で取り扱うようになってき た。2月の6回にわたった朝日の連載企画「分裂にっぽん」も、今や高齢者が圧倒的多 数の住民となった高島平団地に焦点を絞り、格差社会の一つの底辺の実態を克明に伝え 、注目すべき報道の成果を示した。しかし、今回の毎日の企画報道は、そうした格差社会をだれがつくり出しているのか、そこから利益を得るものはだれか、格差社会を生み出すことに加担する政治家や政府の責任も問われるべきではないか、などの問題を遠慮なく突きつけてくることを予感させるところがあり、頼もしい。さらに一歩を進め、構 造改革総仕上げの一方の雄、竹中平蔵総務相における経済・政治のインサイダー的裏面の解明も試みてもらいたいものだ。ネタには事欠かないはずだ。(終わり)
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