桂敬一/元東大教授・日本ジャーナリスト会議会員/メディアウォッチ(46)総選挙で国民はどのような新政権を求めているか―自公政権打倒を目指す野党3党の戦略 ・ 政策を聞く―09/08/22

kuruma

 

 

メディアウォッチ (46) 2009年8月21日

 

総選挙で国民はどのような新政権を求めているか

 

―自公政権打倒を目指す野党3党の戦略 ・ 政策を聞く―

 

日本ジャーナリスト会議会員   桂  敬  一

 

  私たち 「マスコミ九条の会」 が、 今回の公開野党討論会 「国民はどのような新政権を求めているか―日米安保 ・ 経済再建 ・ 市民参加」 の企画検討に入った5月中旬は、 麻生政権が顕著に内閣支持率を下げだした時期だった。 それは6月に入ると、 どのメディアの世論調査でも10%台にまで低落した。 代わって、 鳩山新代表の民主党が急激に支持率を伸ばし、 メディアは 「政権交代の選挙」 、 総選挙後の 「2大政党制政治」 に大きな関心を示し、 そうした風を吹かせることに熱中しだした。

 

  朝日、 毎日のような護憲派メディアも例外でなく、 とくに朝日は民主党支持の線での 「政権交代」 「2大政党制」 実現に争点を絞る傾向を見せた。 しかし、 55年体制が行き詰まり、 オバマが世界に変化の衝撃を及ぼしている状況の下での総選挙に、 「政権交代」 「2大政党制」 程度のことを期待するだけでは、 私たちは不満だった。 今回選挙は大きな歴史的転機をもたらすべきものだ、 と思えたからだ。

 

  自公政権を打倒したあとの新政権の課題は何であろうか。 やや大仰にいえば、 ペリー来航、 明治維新、 1945年敗戦、 冷戦体制と日米安保体制、 冷戦崩壊、 米国一極支配体制終焉などにも匹敵する、 重大な歴史的転換期に臨み、 新しい未来への針路を選択することこそ、 その課題であろう。 政府は、 「9 ・ 11」 後、 イラク戦争とアメリカ主導のグローバリズムに追随、 日米同盟の拡大 ・ 強化と国内政治経済体制の 「構造改革」 を押し進めてきた。

 

  だが、 ブッシュ政権の戦争政策失敗、 アメリカ経済の危機の露呈で、 従来の対米追随路線の破綻は明白となった。 政権を目指すものが総選挙で問われるのは、 そのような路線と決別、 新しい情勢に対応できる、 かつてない画期的な歴史的針路を描くことである。 だが、 どの政党も、 メディアも、 口では歴史的な総選挙というものの、 その意味、 目指すべき目標やそこに至る道筋を、 明確に語ることができていない。 それならば、 そのことを議論する場を自分たちでつくろう、 と私たちは考えた。

 

  7月30日午後6時、 日本記者クラブ ・ ホールで討論会は開かれた。 政権の座から去るべき与党=自公両党には参加を求めなかった。 野党のうち、 国民新党は、 選挙情勢の急迫から、 手当てできる人的余裕がないとして、 参加を辞退した。 民主党からは藤田幸久参院議員 (党の拉致問題委員会委員長)、 共産党からは仁比 (にひ) 聡平参院議員 (参院法務委員会委員)、 社会民主党からは又市征治参院議員 (副党首) がパネリストとして参加した。

 

  議論を深めるために、 討論者を立てることとし、 前田哲男さん (軍事問題評論家)、 辻井喬さん (詩人 ・ 作家) のお二人にその役をお願いした。 コーディネーターは私が務めた。 7月12日が東京都議選の開票日。 自民大敗の結果を受け、 退路を断たれた麻生首相は13日、 ついに同月21日の衆院解散、 8月30日投票での総選挙 「予定」 を発表、 関心は永田町もメディアも、 一気に選挙モードに切り替わった。 7月30日の討論会開催は、 偶然ながら絶好のタイミングとなり、 熱心な聴衆が、 会場150の座席を埋めた。

 

  最初に発言の藤田議員は、 自公両党やメディアの一部による、 民主党の 「政権担当能力」 を疑問視する発言に対して、 世論調査では民主党に期待を寄せる声のほうが多くなっており、 決着はついている、 と自信のほどをのぞかせた。 また、 「財源」 の不明確さもよく槍玉にあげられるが、 与党の定額給付金、 高速道路割引や、 ばらまき型の09年度補正予算など、 税金が国民のために使われていない実態にメスを入れ、 ムダを圧縮すれば、 財源は確保できるし、 年金を一元化し、 加入者が、 自分の将来もらう年金のために、 今から保険料を払って積み立てていく方式にすれば、 すべてを税金に頼る必要もなくなるなど、 これまでの政府 ・ 与党の政策とは異なる、 独自の考え方を披瀝した。 これは、 スウェーデンの年金制度の仕組みに近い。

 

  年金の積立金を、 戦争中は戦費に充て、 高度成長時代には公共事業に投入するなど、 とかく政府は 「埋蔵金」 扱いしてきた。 これを改め、 必要に応じて取り崩し、 受給者への給付に返していくのだ。 また、 藤田議員は、 80年代後半から始まった日米構造協議のなかで、 アメリカが 「年次改革要望書」 を日本に毎年突き付け、 建築確認申請手続、 医療制度、 郵便制度 (郵便貯金 ・ 簡易保険含む) など、 多くの制度の規制緩和 ・ 民営化を要求、 これに対して政府与党は 「売国奴的な改革」 をもって応えてきたが、 このような関係も根本的に変えていかねばならない、 と語った。

 

  共産党の仁比議員は、 今度の選挙は、 主権者=国民が歴史を変える選挙であり、 新しい政権は国民の暮らしと権利を大事にし、 アメリカとの軍事同盟から脱却する必要がある、 と自党の基本的なスタンスを明らかにした。 そして、 憲法25条を生かすことが重要な一つの柱であり、 まず派遣法を改正、 雇用を守り、 欧州並みの同一労働同一賃金実現を目指すとともに、 消費税の引き上げを許さず、 むしろ食品など基本的な日用品への課税撤廃を図る、 とした。

 

  代わる財源としては、 構造改革下で大企業の企業減税が推進されてきたが、 これを止めたり、 5兆円にも達している軍事費を圧縮、 とくに在日米軍に対する思いやり予算や、 長期的には総額3兆円にものぼるとする計算もある、 沖縄海兵隊のグアム移転に関わる費用のかなりの部分 (移転当初でも約60億ドル=約7,000億円) の負担を止めるなどすれば、 捻出は可能だと語った。 これらはもう一つの柱、 憲法9条を生かすこと、 その完全実施でもある、 とつづけ、 こうした非軍事化の道の延長線上で、 オバマ大統領の核廃絶方針を支持、 その路線の推進のためにも、 メディアが現在、 明るみに出しつつある 「核密約」 をはっきりさせ、 非核3原則を堅守していく、 とする見解を示した。

 

  最年長の又市征治議員は、 90年代の冷戦崩壊 ・ 新自由主義の蔓延のなか、 欧州では社民政権が各国で相次いで出現、 社会民主主義的な政策採用が推進されていったのに対し、 日本は、 アメリカに次ぐ世界第2の経済大国であることに執着、 軍事的にも協力、 アメリカとともに世界経営に乗りだす野望を膨らませてきたが、 それが破綻したのが安倍首相から麻生首相にいたる政権瓦解の結末だと、 現在の情勢を歴史的展望の下で捉えてみせた。 頼りのアメリカではオバマ大統領が登場、 富裕層への増税復活、 公的医療保険実現、 核廃絶への動きなどの変化が生じ、 格差拡大社会から福祉社会への転換が図られだした。

 

  社民党としては、 日本でこのような転換を図ろうとする民主党との連立政権を目指し、 ワーキングプアや教育格差の世代間移転の防止など、 幅広い経済 ・ 社会政策によって国民の生活再建に取り組み、 憲法25条の理念の空洞化を防ぐとともに、 外交 ・ 防衛政策において、 冷戦構造の負の遺産を清算していく、 と又市議員は語り、 ピースデポの構想する 「東北アジア非核地帯」 の提案はモンゴルまで含め、 8ヵ国に届き、 北朝鮮にだけ伝わってないが、 このような動きを今後も独自に強めていきたい、 と付け加えた。

 

  3党の最初のプレゼンテーションのあと、 討論者の前田さんがまず、 討論の争点を提起した。 「どの党も、 実質性を備えた歴史的転換を指し示す政策があるのか否かが問われている。 55年体制が55年目にして崩壊しようとしているが、 その結果が政権交代だ、 というだけでは、 話にならない。 その時点以降、 日本の戦後史を、 そして世界の歴史を、 どこにもっていくのか、 そのために何をするのかが問題だ。 まず民主党に関しては、 対米政策において自民党とどう違うのかが、 大きな争点となる。 むしろ最近、 それがはっきりしない。

 

  昨年は、 インド洋給油 ・ 在日米軍再編 (普天間基地) ・ 地位協定の 『3点セット』 では、 中止あるいは見直すという方針がはっきりしていたが、 今年、 政権が近づくと、 それに揺れが生じている。 だとすると、 有権者に対して約束違反にならないか。 憲法を生かすレベルでものがいえ、 9条の具現化が可能な政権になれるのかが注目される。 まだ、 小沢前代表の、 国連中心主義でいき、 国連管理下なら非軍事的な自衛隊の海外における国際貢献活動もあり得る、 とした考え方のほうが筋が通っている。 外に開かれたものとしての9条のイメージがある。 他の党も、 このような新しい方向性をもっと出すべきだ」。

 

 「細かな政策の提示も必要だが、 前提となる、 長期にわたって政治をどう変えるかが、 どの党もはっきりしない。 今、 国際社会でアジアの存在感が急速に大きくなっている。 可能性も大きい。 そのなかで日本のカゲはどんどん薄くなっている。 フランスのジャック ・ アタリが、 日本はなぜアジアで友人がつくれないのか、 といっているが、 これまでの55年間、 政府が改憲し、 戦争ができるようにするといってきてきたのだから、 友人もできないのは当然だ。 また、 世界不況はちょっとやそっとでは終わらない。 産業構造を根本的に変えねばならない。

 

  だが、 メディアは短絡的に 「大きい政府」 はよくない、 「小さい政府」 でいけ、 と繰り返し、 国民をミス ・ リードしている。 メディアに惑わされ、 彼らが吹かそうとする風や空気に合わせて政治しようとすると、 危ない。 大衆社会における政党のあり方を基本的に変える必要がある。 そのためには政治家のレベルを急いで上げる必要がある。 若者たちはだめになってはいない。 彼らのいいところをどう引き出すかが重要な課題になる。 『敵を知り、 己を知れば、 百戦するも危うからず』 のとおり、 若者の新しい感性を自分たちのものとし、 彼らをポピュリズムで騙そうとする自民党の狡さを侮らずにたたかい、 彼らを味方につけるのだ。

 

  感性が鋭く、 真面目な若者が、 特定のシンガーソング ・ ライターのコンサートに集まるのはなぜかを、 政党は理解しなければいけない。 そして、 政権に就くには、 中心的な理念をはっきり出していくことが肝要だ。 憲法がそれだろう。 唯一の被爆国としての立脚点もそうだ。 さらに地方に静かに根を張っている人々をどう味方にしていくかが重要だ。 その際、 議論だけで勝ってもしょうがない。 本当に勝つとは何かを考えることが重要だ」。 辻井さんの問題提起は会場に静かに染み通っていった。

 

  このあと、 討論に入ったが、 補足的に藤田議員が 「個人的には究極の安全保障は隣国の信頼をかち得ることであり、 そのための武器は信義を貫くことに尽きる、 と考えている。 スペインのサバテロ政権は早くに、 世論に従ってイラク戦争から撤退したが、 派兵をつづけるブレア英首相との友好関係は損なわず、 対米関係も悪化させなかった。 いいつづけてきたことを守ることこそ、 大事だ。 東アジアで軍事力によらない信頼関係を日本が築ければ、 それはアメリカのためになり、 日米の新しい信頼関係の基礎ともなる。 今の在日米軍再編は、 アメリカが外に出ていくためのもので、 日本を守るものではない。 前田さんご指摘の点は、 自分は党内にあって、 従来の線を守っていきたい」 と語ったのが、 興味深かった。

 

  仁比議員は、 オバマ大統領自身は、 政権内外に反対勢力を抱えながらも、 真剣にアメリカの世界一極支配を終わらせようとしており、 歴史的にもその条件はある、 としたうえで、 アメリカが今回、 「東南アジア友好協力条約」 (TAC) に加盟した点に注意喚起し、 日本は今、 アジアを傷つけてきた冷戦、 日米安保、 在日米軍基地の問題をはっきりさせ、 そこから抜け出す必要がある―それがアジアに対する貢献になる、 と述べた。 若者の心を捉えるには、 大企業のいいなりだった政治を変えることが最優先課題であり、 反貧困のたたかいには若者が鋭く反応を示し、 連帯も強まっている、 と報告した。

 

  又市議員は民主党との政権連立の条件として、 内需中心経済、 雇用重視、 社会保障重視の生活再建、 憲法理念の実現、 の4つを挙げ、 これらについてはぶれないよう民主党を支えていく、 とする社民党の姿勢を明らかにした。 そして、 もし民主党がインド洋給油や非核3原則に関する方針を変えたら、 有権者から、 「政治が変わる」 とは思ってもらえないことになるだろうと述べ、 今回の選挙は必然的に、 憲法理念に立つ勢力と改憲に動く勢力との対決となる実質をもつものとなる―メディアはそこをあまりはっきりさせないが、 今度の選挙の大きな争点は憲法だ、 と指摘したのが印象的だった。

 

  自由な討論に入ったとき、 コーディネーターの私は、 「各党の長期にわたる政治姿勢を占うとき、 日本に関わりの深いアメリカの国内政治 ・ 経済の行方も、 世界の政治 ・ 経済の危機の根本的な克服の行方も、 オバマ大統領の目指す『チェンジ』が進展するか否かにかかっているように思えるので、 その点に関してどう考えるか、 意見をうかがいたい。 この国としてオバマを助けるのか、 あるいは彼のやり方に反対するのか、 助けるとしたら、 何をやるべきなのか」 と、 「オバマ」 を争点とする議論をお願いした。 各党パネリストは、 大筋のところで 「オバマを助ける」 で一致、 いろいろな対処方針、 具体策をめぐる意見を述べ、 議論をたたかわせたが、 以下のような意見や問題提起が、 記憶に残った。

 

  又市議員は、 オバマの 「唯一の核兵器使用国としてのアメリカ道義的責任」 の重要な意味に再び注意を向け、 それならば日本は唯一の核兵器被爆国として、 非核3原則を堅持、 オバマの核廃絶の達成を助けねばならない―それも徹底したものとする必要があり、 核実験をした北朝鮮に対しても、 あくまでも非核の日本の姿勢を貫き、 拉致 ・ 核 ・ ミサイルをいつもドッキングさせ、 強硬な制裁措置ばかりを振りかざすのも止めるべきだ。 国交正常化という目標を前に置き、 あくまでも対話で向かい合うようにし、 さし当たりのアメリカの核の傘についても、 先制攻撃しないよう求める、 とする姿勢を明確に示すべきだ、 と語った。

 

  藤田議員は、 オバマを助けるためにも、 既存のアメリカの政権担当者がやってきた、 オバマのしがらみになることや、 オバマ以外のアメリカの改革派のたたかいなどを、 もっと日本国内で明らかにし、 ポジティブな情報を日米の心あるものたちが共有できる状態をつくるべきだ、 と発言した。 例として、 上述のアメリカの身勝手な 「年次改革要望書」 は、 もっと日本で報じられるべきなのに、 実情はそうなっていないこと、 2004年の大統領選にも出馬した民主党のデニス ・ クシニッチ下院議員が昨年、 ブッシュ弾劾決議案を提出、 下院は可決、 CNNも大きく報じたのに、 日本ではまともに伝えられなかったことなどを挙げた。

 

  仁比議員もその点の重要性に共感、 最近ベルギーが非核3原則の法制化を進めており、 そうなればEU全域における核廃絶の気運が高まるのに、 日本ではほとんど気付けない程度の報道しかなかった、 と指摘、 オバマを助けるためにももっと報道をと、 メディアに注文した。

 

  討論者の前田さんは、 アメリカの核廃絶の考え方には2種類あって、 オバマは平等な核軍縮を進め、 その進展の結果、 世界の核の全廃を目指す考えただが、 自国の核保有の比較的優位は常に保ち、 しかも同盟国に対する 「核の傘」 の保持 ・ 拡大政策は緩めず、 そうした力で抑止力を発揮、 劣位の核保有国には核廃棄を迫り、 非核保有国には核所有を諦めさせる、 いわゆる 「拡大抑止」 という考え方が、 依然として大きな力をもっていることを警戒する必要がある、 と説明、 注意を促した。

 

  これに対して、 民主党の藤田議員は、 鳩山代表と岡田幹事長はどちらも徹底した非核化を目指す点で意見は一致していると、 自党の事情を報告した。 コーディネーターの私が、 3月に岡田幹事長は、 民主党が政権を取ったら 「核密約」 「沖縄返還密約」 などの政府文書はすべて情報公開の措置を取る、 と語ったが、 その方針に変わりはないか、 と尋ねたところ、 藤田議員は、 岡田幹事長はかならず約束は守る、 と回答した。 東アジアには北朝鮮を中心とする核の脅威があるわけだが、 これまでの討論で非核の姿勢を明らかにした野党が政権を取り、 国会で多数派を占める事態となれば、 この総選挙が、 北朝鮮にも大きなメッセージを送り、 その核への執着を日本が捨てさせる、 重要な転機をもたらす可能性もあるのではないか、 と思わせるものがあった。

 

  長時間の討論の最後に、 辻井さんからファイナル ・ コメントをもらった。

 

  「欧米では最近、 深刻な経済危機のなか、 弱い企業同士でなく、 勝ち組というべき強い企業同士が合併したりするケースが増えている。 日本でもキリンとサントリーが一緒になる。 これで両企業の経営業績が改善され、 日本全体の景気も回復するかというと、 そうはならず、 事態はまったく反対に動く危険性がある。 強いもの同士のカルテルは、 弱いものを滅ぼし、 強いものをますます強くし、 彼らのマーケット ・ シェアは高めるが、 その業種全体の生産や売上げ、 雇用者数などは減らすほうに作用する場合が多い。 このような動きをみるにつけ、 国民国家としての帝国主義はもうなくなったか、 もうじきなくなるといえるが、 グローバルな帝国主義はいよいよ巨大化する、 と警戒を強める必要がある。 政治の一極支配がなくなっても、 少数の巨大企業集団による、 国家も国境もものともしないグローバルな支配が貫徹するようになるおそれがある。 これにどう対抗するかは、 国境を越えて連帯できる市民のグローバリズムの成長、 発展がカギとなる」。 「2大政党制という考え方は正しくない。 どの党も遠慮せずに、 どんどん自分の党を大きくするように努め、 支持者に訴えるべきだ。 結果的に5大政党制というような状況になったほうが、 よほどいい」。

 

  最後に、 参加者から届いた要望を会場に紹介した。 「民主党は政権交代した場合、 閣僚の記者会見にフリーの記者も入れ、 質問ができるようにしてほしい」。 会場に笑い声と拍手の音が起こった。 これに便乗、 コーディネーターも、 各党に要望を伝えた。 「通信と放送の垣根を取り払う情報通信法の制定が検討されているが、 産業と企業ビジネスの都合ばかりでそのような規制改革をやると、 放送、 新聞、 出版など、 ジャーナリズムを担う公共的なメディアは、 自律的な存立基盤を解体され、 市場原理主義に席巻されるのと同時に、 政府の保護や規制を頼りにするしかない立場に追い込まれる心配がある。 そのような事態の生じない制度を制定してほしい。 とくに民主党は、 通信 ・ 放送を政府が直接監理する体制を変更、 世界のほとんどの国が設けている、 政府から独立した 「独立行政委員会」 (たとえばアメリカのFCC=連邦通信委員会のような機関) を新設、 これに通信 ・ 放送の監理を委ねる、 とする構想をもっているが、 言論界の意見も聞き、 その実現を図ってもらいたい。 また他党も、 この問題を巡り、 そうした方向での検討を進めていただきたい」。

 

  選挙公示の8月21日現在になっても、 というか、 ここまでくるとますますそうなるのか、 といいたくなるほど、 メディアの選挙報道は、 注目の選挙区 ・ 候補者、 自民 ・ 民主のいがみ合いなどなど、 いつもながらのゴシップ風のニュースばかりが多くなっている。 また、 歴史的転換期の選挙といいながら、 なぜ転換期なのか、 そこで選挙が歴史を変える、 どんな役割を演ずるのか、 よくわかるように論じた記事も番組も、 ほとんどみかけられない。

 

  そうした現実に直面すると、 この討論会の総括討議はまだ行っていないが、 やはりこれはやってよかったという気がする。 私たちが歴史的転換期の意味や、 各党の変革の長期方針をすっかり解明できたとは、 もちろんいえない。 しかし、 メディアが自分の問題意識で新しい時代の到来を大きく捉えようと努め、 志ある政治家 ・ 政党人の変革への思いを率直に訊ねれば、 閉塞からの脱出を望む多くの有権者 ・ 市民の関心と共感を呼ぶ討論の場をつくることは可能だ、 とする手応えを、 このつたない経験だけからでも、 得られたように思えるのだ。 やれることはたくさんある。 投票日までまだ時間もある。 歴史を変えるためのメディアの奮闘を、 切に望みたい。

 

(終わり)