視角/ 丸山重威 (関東学院大学教授) (JCJジャーナリストより転載)14/09/23

「朝日問題」

 「朝日新聞の謝罪劇は言論の敗北、新聞社幹部の右傾化が進行している証拠だ。吉田調書問題、従軍慰安婦問題とも、記事の間違いは大したことはなく『許された危険』の範囲。朝日の幹部がある勢力と結託して、言論の敗北を演出したのではないかという疑いを感じる」―。朝日の社長会見記事を見たある元裁判官の感想だ▼「間違いは大したことではない…」という意見は必ずしも同意できないが、メディアに対する期待と信頼の深さには頭が下がる。ここには、間違いなく「木」でなく「森」を見て「ニュースの本質」を掴もうとする真摯な読者がいる▼2つの「吉田報道」。だが、32年前の「吉田清治氏が集会でこう語った」というのは事実だった。ただ、後に著書も書いた吉田氏の言葉を信じて繰り返したのは誤りだった。しかしこれは、朝日だけの責任ではない。他に資料もあったし、慰安婦問題は歴史的事実だ▼吉田所長調書の間違いは、情報判断と記事作成のミス。入手した特ダネ資料をどう報じるか。まず虚心に読むことが大切だが、「大きく載せたい…」とか「急がなければ」という誘惑が目を狂わせる。デスクや幹部と情報が共有されていないと、チェックしても見逃される▼ここで重要なのは、吉田証言がウソでも慰安婦を強制的に集めたことは事実あるし、吉田チームは逃げなかったが、東電が官邸に「撤退」を申し出て、誤解が生まれたのは事実だ▼NHKを意のままにし、朝日を代表とするまともなメディアを退治する。それに屈するわけにはいかない。