「連載」亀井淳/「笑う犬」週刊誌ウオッチ(3)06/03/15 Weekly Magazine Watch Dog


がせメールと「週刊新潮」50年

                                                      亀井 淳/ジャーナリスト

 民主党の「ガセメール」事件はお粗末の極みだった。自民党に「全面降伏」して一応の幕引きはしたものの、前原執行部はレイムダックの醜態を今後もさらすことだろう。

 永田寿康衆議院議員(36)が、メールの「仲介者」といっていた「フリージャーナリスト」の正体を比較的早くから掴んで報じていたのは週刊新潮だ。ホリエモンから武部勤・自民党幹事長の次男に3000万円の資金提供があったとする永田氏の「爆弾質問」が予算委員会で行われたのが2月16日。その日のうちに小泉首相が「ガセネタ」と一蹴するなど政界とマスコミが騒然とする中、一週間後(2月23日)発売の週刊新潮(3月2日号)は、「『謀略メール』を永田議員に渡した『札付き記者』の正体」と銘打った特集を掲げた。

 すなわち、雑誌の業界では「彼」の行くところ、「必ず彼の企画した記事が問題を起こしていました」。その代表的な事件が 、週刊ポスト2000年2月4日号に載ったプロ野球清原和博選手(当時巨人)に関するスキャンダル。自主トレで渡米中の清原選手がストリップ劇場に通い詰めて練習どころじゃない、といった話なのだが、まったくの事実無根。清原選手が週刊ポストを訴え、一審では名誉毀損訴訟の最高額である1000万円損害賠償と謝罪文掲載をポストが命じられた(控訴審で600万円に減額)。

 ほかにも民放の女性アナについてのデマ記事で770万円の賠償を命じられているし、自身についての詐称も多く、「福沢諭吉の孫」「笹川良一の隠し子」「叔父が元長野県知事」などと嘘をついて歩く。学歴もデタラメ…、と手のつけられないガセ男であることを紹介した。翌週の新潮(3月9日号)には実名と、目隠し入りだが顔写真も載っている。

 こうしたことの暴露に手抜きをしないのが週刊新潮の真骨頂と言っていいのかもしれない。

 その週刊新潮は去る2月で創刊50周年を迎え、連続して記念特大号を発行している。記念特集の一つに「50人の証言『週刊新潮と私』」という企画がある。同誌にしばしば登場した人物が回想しているのだが、人をほめることは滅多になく、もっぱらバッシングするのが同誌の商法だから、やられた方からの恨み辛みが圧倒的に多い。

 たとえば、特集トップに掲げられているのがデヴィ・スカルノ。「新潮は執拗に私を追い、自分達で勝手に作り上げた虚像に憎しみをぶつけ続けてきた」「編集部に火をつけ、燃やせたらとか爆弾を仕掛けてやりたいというような夢想に駆られた事もあった」

 野中広務元自民党幹事長は、「それにしてもよくこれだけ取材もしないで、嘘ばかり書き並べて五十周年を迎えられたものだと感心いたします」

 ほかに逮捕前の堀江貴文、裁判で二度勝った伊藤淳二(元カネボウ名誉会長)、鈴木宗男代議士、三浦和義(元「ロス疑惑」被告)など、いわば新潮の「天敵」とでもいうべき人物たちがぶちまけている。それをそのままズラッと並べて、新潮としては向こう傷も歴戦の誇りというつもりなのかもしれず、「懐が深い」と言えばそうでもあるが、この自虐ぶりが要するに商売なのだ。 

  読者に違和感を抱かれてもけっこう。ツルンとなめらかよりは、ザワザワがさがさしていたほうが人が立ち止まって注目する。そこで一瞬の芸で売ってしまったら、後は野となれ…。名誉毀損などで裁判を抱えるのは面倒だが、敗訴でも記者には社内的なおとがめはない。高額な罰金や慰謝料も「必要経費」という考え方なのだ。無責任で虚無的なジャーナリズムの典型である。

 問題は、週刊新潮50年の間にそうした無責任な雑誌作りが他の週刊誌に浸透し、ジャンルを超えて新聞や放送にも影響が及んでいることである。でも、あえてこちらも無責任な言い方をすれば、メディアはしょせん商売だ。ハッタリもあればガセもあると、市民(メディアの消費者)のほうが知ってしまっている。

 しかし、大問題なのは、政治の世界にもそうした「瞬間芸」や「ガセネタ売り」が流行してしまったことだ。「小泉劇場」こそ無責任な瞬間芸の典型である。その劇場の一こまで、アホ丸出しの幹事長が、若いくせに拝金主義の権化のように肥ったホリエモンとデュエットを踊った。そこに怪しいカネのつながりがあるのでは、と疑うのは当然だ。しかし、ネタの真偽も確かめないでふりかざしてしまうのは三流週刊誌記者より粗忽である。それをチェックできなかった民主党執行部の質の低さが情けない。

 なお、週刊新潮を含むいくつかの週刊誌は、いまなお武部幹事長とホリエモンの金銭疑惑を別の角度から追っているようだ。それは、やるべしだ。