林 治(弁護士・代々木総合法律事務所)事件からみる貧困ビジネス/08/11/01

 


 

事件からみる貧困ビジネス

 

林 治(弁護士・代々木総合法律事務所)

 

 現在の日本に急速に広がっている貧困層。この貧困層をねらった「貧困ビジネス」事件を現在争っている。「貧困ビジネス」とは、湯浅誠さんによれば「貧困層をターゲットにしていて、かつ貧困からの脱却に資することなく、貧困を固定化するビジネス」のことである。

 

 事件は、「敷金ゼロ、礼金ゼロ、仲介手数料ゼロ、保証人不要」として初期費用を低額に抑えた被告の不動産会社が、わずかでも原告ら(5名)の家賃の支払いが遅れると無断の鍵を交換し、新しい鍵を得る条件として、困窮状況と無知につけ込んで法外な「違約金」等を徴収し、さらに、「違約金」等を支払うこともできなかったら、物件内の原告の生活用品や衣服、家財道具など、すべて撤去してしまったことに対して損害賠償を求めているものである。

 

 本来、借地借家法では正当事由がなければ、賃貸人からの解除はできないとされ、賃借人の保護が図られているのである。

 

 しかし、被告の会社では、この借地借家法の脱法行為を行うため、「施設付鍵利用契約」という契約を締結し、単なる鍵の利用契約にすぎず、賃貸借契約ではないとしていたのである。

 

 被告は、現在では入居者との契約が賃貸借契約であることを認めているが、いかなる契約にあろうとも、法外な「違約金」等を徴収することや、勝手に鍵を交換することは、消費者契約法や公序良俗、自力救済禁止の原則に反する行為である。

 

 被告の物件には、初期費用が安いことから、フリーターや外国人などの貧困層の入居者が多い。原告らが被告の物件を選んだのも、初期費用が安いから、という理由によるものである。原告の中にも派遣労働者など不安定雇用の者もおり、他の入居者の中にも非正規雇用で低収入のため、こういった物件を選ばざるを得なかった者が多数存在すると思われる。

 

 生活基盤である住居を得るには、通常は初期費用として賃料の5〜6ヶ月分の費用が必要である。しかし、貧困層にはその費用を用意できない。

 

 そこで、行政が低額で良質の公営住宅を、社会保障の一環として提供するべきなのである。これを行政がサボってきたために、こういった「貧困ビジネス」が繁栄してきたといえる。行政が生活保護の受給抑制をすすめる一方で、生活困窮者がサラ金に手を出し、サラ金業界が繁栄してきたのと同じ構造である。

 

 この訴訟をきっかけに、悪質な「貧困ビジネス」を駆逐するとともに、国の住宅政策の転換も求めるような運動を展開していけたらと考えている。

 

 以上