山口真美(弁護士・三多摩法律事務所)/海外派兵恒久法の危険性を問う/08/05/21

 


 

 

 

 

海外派兵恒久法の危険性を問う

 

山口真美(弁護士・多摩法律事務所)

1 今なぜ海外派兵恒久法か
 自民党は、自衛隊を常時海外派兵できる態勢をつくる自衛隊の海外派兵恒久法について、通常国会の会期末までに要綱をまとめ、秋の臨時国会で成立をはかるとしている。
 直接的な動機は、来年1月に新テロ特措法が期限切れとなり、同年7月にはイラク特措法が期限切れとなるため、自衛隊の海外派兵を中断させないようにすることにあるが、その背景は深い。昨年9月に明文改憲を強行しようとした安倍政権が崩壊し、明文改憲が必ずしも容易でないとなった事態をふまえ、ともかくも立法による改憲を先行させ、立法による九条の破壊を極限まで推し進めようとしているのである。
 改憲派は、明文改憲と立法改憲を車の両輪として九条破壊を推し進めようとしているのであり、こうした位置づけに鑑みれば、恒久派兵法を単なる特措法の恒久化であるとして軽視することはできない。
 では、なぜ、ここまで九条破壊を急ぐのか。その理由はアメリカにある。アメリカは、先制攻撃戦略に基づき、いつでもどこへでも迅速に米軍を派兵できる体制を確立し、軍事的な圧力によってアメリカの国益を実現しようとしている。そうした中で、@日本の自衛隊がアメリカ軍の軍事作戦に機敏に対応できないこと、A自衛隊による米軍支援の実態が貧弱であることに対して、アメリカは強い不満をいだいている。アメリカの要請に応え、その不満を解消するためには何がなでも九条を破壊する必要があるのである。

2 たたき台となる石破試案の危険性

 自民党が成立を目論む海外派兵恒久法のたたき台となるのが、06年8月30日、自民党国防部会防衛政策検討小委員会(委員長・石破茂現防衛相)がとりまとめた「国際平和協力法案」(石破試案)である。石破試案の特徴をみれば、自民党が目指す海外派兵恒久法の危険な本質がいっそう明らかとなる。
 石破試案の主な特徴は次の3つである。
 第1に、自衛隊の海外派兵の出動の要件を拡大・緩和している。これまでPKO法やイラク特措法などの海外派兵法は、国連決議や国家機関の要請を条件としてきた。しかし、石破試案は、国連決議や国家機関の要請がない場合でも、「国際の平和及び安全を維持するため」日本が必要と認めれば、自衛隊を海外に派兵できるとしている。「国際的強調の下に」と称するが、実際にはアメリカによる要請に応えて自衛隊をいつでも、世界中のどこへでも派兵できるようにするための法整備である。
 第2に、自衛隊に認められる活動が「後方支援」から前線での戦闘へ拡大している。石破試案は、これまでは「安全確保支援活動」に限定していたものを「安全確保活動」そのものにエスカレートさせた上、「警護活動」まで認め、イラクやアフガンで現に実施されている掃討作戦や治安作戦を行う広範な権限を自衛隊に付与しようとしている。また、「船舶検査活動」として海上阻止活動をも想定している。アメリカ軍との共同軍事行動を想定したものにほかならない。
 第3に、出動した自衛隊がいかなる場合にどの程度まで武器を使用できるか、その活動の態様、武器使用の要件を拡大・緩和している。PKO法・「周辺事態法」・「船舶活動法」、「テロ特措法」、「イラク特措法」では、「刑法36条(正当防衛)・37条(緊急避難)に当たる場合以外は、人を殺傷してはならない」という条項が入っていたが、石破試案では、「正当防衛」「緊急避難」に当たらない場合でも人を殺し傷つけることを認めている。しかも、相手方からの現実の攻撃があることは武器使用の要件になっていない。使用できる武器についても「小型武器」に限定されないのである。これはイラクやアフガンの戦地や危険地帯でのアメリカ軍との共同軍事行動を予定するものであり、石破試案では、自衛隊員が市民を殺傷するおそれがある。
 こうした石破試案の3つの特徴を見れば、恒久法の目的が、日本の自衛隊がアメリカ軍の軍事作戦に機敏に対応し、自衛隊による米軍支援をいっそう充実させることにあることは明白である。「国際平和協力」という美名の陰には、アメリカとともに戦争と殺戮を行う危険な目的が隠れている。
3 海外派兵恒久法は明らかに違憲
 自衛隊の海外派兵が憲法違反であることは、本年4月18日に名古屋高等裁判所において、明確に断罪された。判決は、バグダッド周辺で行われている航空自衛隊による米軍などの輸送を他国による「武力の行使」と一体とした活動にあたるとして憲法九条1項に違反すると判断した。
 自衛隊による輸送活動はイラク特措法の「安全確保支援活動」として行われているものである。恒久法では、「支援」から「安全確保活動」そのものに自衛隊の活動をエスカレートさせようとしているのであるから、憲法九条に違反することは明らかである。
4 目指すべきは和平と対話
 イラクでは現在も悲惨な戦乱が続いている。イラクの人々の犠牲は推計65万5000人(イギリス医学雑誌「ランセット」06年10月21日)といわれ、国内外で500万人近くが難民化している。他方、アメリカでも犠牲は増大している。アメリカ兵の死者は4000人を超え、負傷者はその数倍にのぼり、帰還兵のPTSDや自殺も相次いでいる。
 こうした犠牲が増える一方で、自爆テロは急増し、テロは世界に拡大している。武力が何の解決にもならないことは明らかではないだろうか。
 日本国憲法は、アジア・太平洋戦争の反省にたって、非戦・非武装の恒久平和主義を誓った憲法であり、九条こそが平和を願う世界の流れにそうものである。
 九条に反する海外派兵恒久法は何としても阻止しなければならない。