
齊藤園生 弁護士(さいとう法律事務所)/映画は世相を語るー07年の映画を振り返るー /08/02/14
映画は世相を語るー07年の映画を振り返るー
齊藤園生 弁護士(さいとう法律事務所)
私は各所の憲法学習会に行くと「本業・弁護士、副業“自称”映画評論家」と自己紹介をする。「憲法学習会と映画評論がなぜ結びつくのか?」と言う人は映画の見方が甘い!と言えよう。映画は如実に世相を反映した立派な文化活動である。今の時代をどう切り取り、どう映画に反映するのかは作家(いわゆる監督)の力量であるが、世界には実に多くの良心的作家が存在し、権力の横暴を暴き、人間の尊厳を高らかに謳う優れた映画を生み出している。私はこのような作家の精神は、正に日本国憲法(だけに限らないが)の精神と共通だと思うのだ。9.11以後の世界の混乱のなかから、実に優れた映画が生み出されているのは、逆に言うと作家達の危機感の表れかもしれない。ことに07年は秀作揃いだったと私は思う。そこで、私の独断と偏見による「07年ベスト3」を列記してみたい。
第3位「サルバドールの朝」。監督マヌエル・ウエルガ。主演ダニエル・ブリュール。フランコ政権末期のスペインで、自由を求めて反政府運動に投じた青年が、逮捕されガテーロという残虐極まりない道具で死刑に処せられた実話の映画化。銀行強盗という行為は決してほめられないけど、自由のために命をかけ、最後まで希望を捨てずに生き抜いた青年の姿は胸を打つ。ダニエル・ブリュールのまっすぐな目が実にいい。
第2位「シッコ」。監督マイケル・ムーア。超大国アメリカのあまりに貧しい医療保険制度を、実に楽しく糾弾しちゃったドキュメンタリー。アメリカには公的医療保険制度がない。民間保険会社は、医師の診断書があっても病気の罹患を認めず保険を出さないから、患者は治療も受けられず病気はどんどん進行する。貧乏人は保険にはいれず、入院しても病院から車で路上に捨てられる。一方隣国キューバでは、旅行者でも病院に行けば、差別なく最高の医療が保証されている。あまりに貧しい超大国アメリカの現実。日本でも医療費の個人負担率がどんどん上がって、外資系保険会社のCMを見るにつけ、アメリカの次は日本か?!と思ってしまう。マイケル・ムーアの最高傑作。
第1位「麦の穂を揺らす風」(公開は06年だけど私は07年1月に見たので)。監督は巨匠ケン・ローチ。アイルランド独立を求め義勇軍に加わった一青年の物語。20世紀初頭まで、イギリスのアイルランド支配は過酷を極め、富の収奪はもちろん、民族の遊びも言葉も認めないというひどさだった。アイルランドの独立を求め義勇軍の闘いが始まり、ついにイギリス軍が撤退。しかしその後の講和条約は、イギリスの権益を維持し、アイルランドを英連邦の自治領とするものだった。この講和条約を巡りアイルランドは内戦に突入。賛成派の兄、反対派の弟の対立は最後は悲劇的結末を迎える。
英雄でも何でもない市井の青年が、本当の自由とは何かを考え続けながら、戦い続ける姿が実に感動的なのである。ヒモ付きの独立など独立ではないし、本当の自由も得られない。最後は悲劇的でありながら、それでもアイルランドからイギリス人が去ったという事実は、闘うことの意味と希望を示している。
そしてイギリス人であるケン・ローチはインタビューで次のように述べている。「私は、この映画が、英国がその帝国主義的な過去から歩み出す、小さな一歩になってくれることを願う。過去について真実を語れたならば、私たちは現実についても真実を語ることができる。英国が今、力づくで違法に、その占領軍をどこに派遣しているか、皆さんに説明するまでもないでしょう」。歴史に対して真摯に、確かな視点で向き合うことのできる優れた作家として、私はこの人を尊敬してやまない。 このページのあたまにもどる
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