平井哲史(弁護士・東京法律事務所)派遣切り3態と派遣法抜本改正の課題
09/09/22
派遣切り3態と派遣法抜本改正の課題
平井哲史(弁護士・東京法律事務所)
はじめに
サブプライムローン問題に端を発する金融恐慌が経済不況をもたらし、政府が把握しているだけでも100万人近くの労働者が職を失う事態になっています。とりわけ、非正規労働者は低い賃金で蓄えができず、そこで首切りになると一気に生活の危機に直面します。こうしたワーキングプアを招いた原因に財界の雇用流動化(要は非正規化)策を推し進めるための労働者派遣法の改悪をはじめとする規制緩和策があったことは周知のとおりです。規制緩和により「いつでも首切り自由」な状態におかれた派遣労働者のみなさんがどんな目にあっているか、相談を受けたなかからいくつか紹介します。
事例1 三菱東京UFJ派遣切り
Aさんは元東海銀行の行員で、一時退職した後、1999年5月にパート(期間6か月、時給860円)で復帰しました。
ところが、2002年1月に合併してUFJ銀行になると、同年4月、人事部にいた者が支店にやってきて、Aさんらパートの行員に全員子会社の派遣従業員になると説明。Aさんは「派遣」がどういうものだかよくわからないまま、「何も変わらないから」と言われて、パート契約を更新せず、同年5月1日からの派遣労働契約にサインをしました。その後、同年7月に支店を移り、以後、職場も業務内容も労働条件も変わらず半年ごとに更新を続けてきました。業務内容はテラー(窓口受付)のサポートで後方記帳事務という専門業務から帳票整理といった一般業務まで幅広くこなしていました。
派遣契約に切り替えられてから6年後の2008年、派遣先の銀行ではAさんのついていた業務に従事する派遣従業員のみなさんをパートで直雇用することを決めましたが、Aさんは、支店の次長によるパワハラを指摘したところ、面接を落とされ直接雇用とはなりませんでした。そして、2009年3月末で雇い止めされました。
事例2 日本郵便輸送(旧ニッテイ)派遣切り
Bさんらは、派遣会社の㈱クレイブから日本郵便輸送㈱の中野営業所に派遣され、2か月更新で1年から5年余同じ営業所で夜コンビニからゆうパックの集荷をして郵便局に届ける業務を担ってきていました。
㈱クレイブと日本郵便輸送㈱は04年11月から労働者派遣を開始しましたが、派遣上限期間を超えないよう07年11月から08年2月いっぱいまで、派遣従業員を一時的に中野営業所での直雇用とします。この際、両社は、予め4ヶ月後の2008年3月から再び派遣従業員の身分に戻すことを通告し、実際にも同月からBさんらを㈱クレイブからの派遣従業員に戻しました。
そして、09年に入って厚生労働省が派遣と請負の区別基準に関する告示37号の基準を事実上緩める解釈を示す問答集を出すのと同時期に、Bさんらの就いていた業務が日本郵便輸送㈱から下請けに出され、Bさんら派遣従業員のうち12名が09年3月末で雇止めにされました。
事例3 大手商社子会社の派遣切り
Cさんは、派遣大手のテンプスタッフからの派遣で、大手商社の子会社でガスを供給する会社に05年3月7日からインバウンドの営業事務をずっとやってきました(ただし、雇入通知書には専門26業務の「OA機器操作」に相当する「OAクラーク業務」とか「データ入力」という記載がある)。
Cさんの職場では、派遣従業員から正社員への登用の実例が複数あり、Cさんも雇い止めを受けるまでに3度派遣先を通じて正社員登用を申し込んでいました。
しかし、派遣先は派遣可能期間経過後もCさんの正社員登用をせず、09年1月末に正社員の態度についてCさんが苦情を申し出たところ、出向社員が戻ってくるからととってつけたような理由で同年3月末でCさんに雇い止めを通告しました。
派遣法抜本改正は不可欠。
新政権がきちんと実行するよう働きかけることが大事
国民生活を度外視した財界奉仕の政策に対する国民の怒りが沸騰し、劇的な政権交代が起こりましたが、国民の怒りを真摯に政治が受け止めるのであれば、雇用と労働条件を安定化させるために労働者派遣法の抜本改正を速やかにおこなうなどの労働分野における規制強化は不可欠だと思います。
以上の3つの事例は、いずれもサービス労働であり、一般派遣について定められている法定の上限期間を超えている派遣法違反の事例です。ところが、いずれの事案も、派遣元は派遣終了の通知を出していません。労働者派遣法40条の4は、派遣先による直雇用申し入れ義務の発生要件として派遣元からの派遣終了通知を定めています。このため、条文を形式的に運用すれば、派遣先に直雇用の申し入れ義務が発生しないことになります。しかし、派遣元としては売上をあげたいのですから、わざわざ売上を落とすこととなる派遣終了通知を出すことなど期待できるわけがありません。このため、違法派遣はし放題の状態が続きます。
また、事例1および3では、仮に契約書通りの専門26業務に該当すると考えても、すでに同一の職場で同一の業務に3年以上従事していますので、派遣法40条の5により派遣先に直雇用申し入れ義務が発生していておかしくありません。しかし、同条は、直雇用申し入れ義務の発生要件として、当該業務について新たに労働者を雇い入れる場合であることを要求しています。そもそも派遣先にしてみれば、人件費を削減するために恒常的な業務であっても派遣を入れています。ですから、派遣従業員にさせている業務について新たに直雇用で労働者を雇い入れるなどまずありません(そんなことをしたら派遣に切り替えた意味がなくなります)。実際に、事例3では、Cさんがおこなっていた業務について新たに正社員が雇い入れられてはいませんでした。
このように、現行派遣法では、直雇用申し入れ義務が定められてはいるものの、抜け穴がちゃんと用意されており、労働局による積極的な指導抜きには直雇用は実現しないようになっています。これでは雇用の安定ははかれません。
政権が変わり、労働者派遣法の見直しが言われていますが、以上簡単に指摘した部分のほかにも登録型派遣の禁止や契約期間の細切れの制限などやるべき改正は数多くあります。きちんと労働者派遣法が派遣労働者の雇用と労働条件の安定を守るものとなるよう新政権に対して働きかけをしていくことが重要です。
以上