島田修一(弁護士・旬報法律事務所)ソマリア沖自衛隊派兵

09/03/25


 

ソマリア沖自衛隊派兵

 

弁護士 島田修一

 

 3月13日、麻生内閣は自衛隊に対し自衛隊法82条の「海上警備行動」を発令し、同時に「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」案を国会に提出した。発令を受けて翌14日、海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」と「さみだれ」が1万2,000キロ離れたソマリア沖へ向けて呉港を出発した。いずれも5千トン級の護衛艦で、2隻に自衛官400名、海上保安官8名、海自の特殊部隊「特別警備隊」が乗り込み、哨戒ヘリ4機も搭載。「テロ」対策を口実にインド洋とイラクに自衛隊を派兵した自公政権は、今度は「海賊」対策の名の下に自衛隊をアフリカへ派兵した。

 

 今回の派兵の最大の問題は、これまでの自衛隊の海外派兵の「限界」を一掃することにある。インド洋とイラクに派兵された自衛隊は、期間限定、地域限定、活動限定、武器限定のしばりを受けていた。インド洋では期間6年、戦闘行為が行われていない地域、協力支援活動・被災民救援活動、イラクは4年、戦闘行為が行われていない地域、人道復興支援活動・安全確保支援活動であり、武器の使用はインド洋でもイラクでも、「生命の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由があるとき」とされていた。活動は後方に止まって前線はダメ、武器使用は生命防護の「受動的」な場合に限定されていたのである(それでも憲法9条1項が禁ずる武力行使に該当することは名古屋高裁判決にみるとおりである)。

 

 ところが、今度のソマリア派兵は、期間の限定はなく、世界中の公海への自衛隊派兵を認め(日本領海もしくは近海に限定されている海上警備行動を拡大解釈して派兵を先行させたうえ、海賊対策法案はソマリアと限定していない)、しかも自ら海賊を取り締まることから「前線」での活動を認め、さらにはそこでの武器使用の基準を大幅に緩和しているのである。

 

 武器使用緩和についてみると、「海上警備行動」と海賊対策法案はいずれも警察官職務執行法第7条を準用しているが、警職法第7条は警察官の武器使用を、「犯人逮捕」「逃走防止」「人の防護」「公務執行に対する抵抗の抑止」の場合に認めている。このことは、「テロ」特措法、イラク特措法における「生命の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由があるとき」と比較し、武器使用のケースを拡大させていることは明らかである。

 

 そればかりか、海賊対策法案は「海賊行為」とは何かについて、「船舶の強取」「船舶内の財物の強取」にとどまらず「船舶に著しく接近する行為」、さらには「海賊行為する目的で、凶器を準備して船舶を航行させる行為」にまで、その定義を広げている。

 

 つまり、海賊が民間船舶に乗り込んで船舶を強取し、財物を強取した場合はもとより、海賊が民間船舶に乗り込もうとした段階でも、それ以前の「船舶に著しく接近する行為」に対しても、さらには距離に関係なく停止発令に従わないで航行を続けている段階でも、武器使用を可能としている。

 

 「テロ」特措法、イラク特措法での武器の使用は受動的であったが、今回は海賊から発砲がなくても先行的、能動的に武器を使用することを認めているのである。しかも、派遣された護衛艦が使用する武器は機関銃・速射砲・機関砲・魚雷、哨戒ヘリの武器は機関銃・魚雷・対潜爆弾・対艦ミサイル、の大量殺戮が可能な兵器である。

 

 1991年のペルシャ湾掃海艇派遣、また1992年PKO協力法で世界各地(カンボジア、モザンビーグ、ゴラン高原その他)に派遣された自衛隊。さらにはアメリカが実際に行っている戦争(アフガニスタン)に2001年から参加し、2004年からは「戦地」(イラク)に部隊を派兵した自衛隊。自衛隊の任務を専守防衛から海外出動へ大きく転換させるこの間の動きの連続線上に登場してきたのが、ソマリア派兵である。

 

 海賊を足がかりに後方支援、人道支援、武器限定のこれまでの制約を突破し、解釈改憲の「究極の目標」である海外派兵恒久法の制定に大きく近づけるために登場してきたのが、ソマリア派兵である。自衛隊に引き金を引かせてはならない。二度と人を殺させてはならない。海賊対策法案の成立を絶対に許さない声と運動を大きくしていくことが今、緊急に求められている。