坂本修/弁護士/「国民投票法案」が成立すると何が起こるか / 06/11/17


シュミレーション「改憲手続き法案」

「国民投票法案」が成立すると何が起こるか
   「マスコミ九条の会」のパネル討論より抜粋            
                     坂本修(弁護士)

 

司会:桂 敬一
 「澤地さんのお話をうかがっても、百は書けなくても一は言えるではないかとか、自ら発しなければよそからいい声が出てくることはないとか、勇気を出して言えばお互いがお互いの力になる。これは本当に今のメディアに対して非常に暖かくもあり厳しい。しかし、どういうふうに闘っていくべきなのか。それはとてもいいおことばだったと思います。
 率直に言って、革新系の様々なメディアを含めても、この国民投票法案の問題というのはあまり議論されていません。下手をして、そういう緊張のゆるんだ中で、この臨時国会の中で突如出されるようなことになったりしたときにどうなのでしょうか。私は下手をすればマスコミは虚をつかれるような形でもって、出された問題に引きずられていくということになりはしないかというのを怖れています。これは、こんなことでいいのかどうなのか。単なる手続きであるのかどうなのか。私はそう思っております。
  最初は坂本さんに 国民投票法案のどこが危険かというところを絞ってご説明をしていただきたい思います。よろしくお願いします。」

国民が正体を知れば必ず「国民投票法案」は潰せる

坂本 修「坂本です。本当にこの話をどうしても聞いてほしいと思っていましたので、呼んでいただいて、最初に御礼を申し上げておきたいと思います。


 弁護士になって47年、74歳になりました。それでも澤地さんより二つ若いです。学習会で話してアンケートを見たら、坂本さんのような余命幾ばくもない方の話を聞いて、きょうはたいへん参考になりましたというのがありました(笑い)。いささかげんなりしていますが、しかし47年間、自由法曹団の弁護士として人権の擁護、悪い法律に反対をして努力をしてきましたが、私の全生涯の中でこれほど危険な法律が国会にかかっているのに、これほど知られていないという事態は私は初めてです。ただし、同時にそれは大変だと思いますが、しかし真実が明らかになれば、この法案は必ず潰すことができると思っています。
 例えば日本弁護士連合会、全国の弁護士、党派を超え、大企業の顧問弁護士から私たちのような弁護士を含めてすべての弁護士が参加をしている日本弁護士連合会は、8月22日に、この法案について自公民案も民主党案も憲法の基本に反すると、重大な問題があるというので、厳しい批判の声明を全員一致で出しました。これは単に弁護士だからというのではなくて、法案を調べていくと非常に、それこそ党派に拘わらず、もっと言うと改憲に賛成の人を含めて、これは許せないとなる法案だと思います」

●シュミーレーションの(1)

改憲原案を審議するための「憲法審査会」が出来る

「前置きはそのぐらいにして、15分で私はこの法案の最大の問題を皆さんに語りたい。それにはあるシミュレーションを語ってみたい。つまり、この法案が今国会で私たちがマゴマゴしているうちに、もし通ったならば、その次にどんなことが起きるのかということから話をしていきたいのです。
 まず、この法案が通りますと、よく国民投票法と言われておりますので、国民投票の手続きかと思っていますと、それは違うのです。この法案の後ろの本当に目立たないところに、国会法の一部改正というのがございます。この国会法の一部改正でこの法案が通りますと、法案が成立した直後の国会から、国会に憲法審査会というのが作られます。この憲法審査会は改憲原案の審議をし、作成をし、国会に出すというところまでの権限を持っています。今までの憲法調査会は、憲法問題について調査をするという権限しかありませんでした。こういうふうに改憲したほうがいいとか、改憲が必要なのだとか、そういうことを少なくとも公式には語ることのできない組織でした。グチュグチュ何年もやっていましたけれども、彼らの思いどおりに、その中から改憲の国民世論を作ることはついにできないで失敗したと思います。
 ところが、この法律が通りますと、これがドンドン進みます。ご丁寧なことに、閉会中審査については特別な手続きがいるというのは国会法の定めですが、この憲法審査会に関しては全然、閉会中もフリーパスと。国会が止まっていようが止まっていまいが、引き続いて審議ができるということになっています。ですから私たちは、この法案が通りますと来年の国会から、国会の二つの憲法審査会で次々と自民党の新憲法草案をおそらく原案として、こうしたほうがいいああしたほうがいいということで改憲班談合が国会の中で進み、それがメディアを通じて国民にドンドン流され、私たちが九条の会とかいろいろ言っているうちに、国会はそこまで進んだの? 世の中そうなったの? ということが起きるというのがまず第一です。しかし、きょうは時間がないからパスします。」

 ●シュミーレーションの(2)

広報協議会が作った「改憲広報」が国民に配布される

「もう一つの大問題は、それでいよいよ国民投票が始まったとします。この法案では、国民投票に関する規定については、この法案が通ってから2年後に発行するとなっています。したがって、2年後を考えてください。安倍さんは5年以内、できるだけ前倒しでやるとおっしゃっていますから、5年から2年プラスαの時間帯で国民投票が私たちの反対にも拘わらず発議され、強行されたとします。何が起きるのか。事実だけ並べましょう。
 まずしばらくすると、皆さんのうちに改憲広報というのが届きます。改憲広報は誰が作るのかと言いますと、広報協議会というのが両議委員から10人ずつ出して、合計20人の広報委員会が作ります。広報委員会の構成は、正確に議席比でやりますと、共産党と社民党はゼロです。自公民しかいません。それではいくらなんでもひどすぎるでしょ? 法案はご丁寧に、「できるだけ配慮するもの」と書いてある。ですから、たぶん20人中、社民党1人、共産党1人、最大でみても2人ずつでしょうか。ですから、16対4ないし18対2で広報協議会をやる。
 この広報協議会が改憲広報を作ります。改憲広報については、改憲案についての解説をしてくださるそうです。アメリカのために一緒に海外で戦争をする国にする、そのために九条を変えますと書いてくれるわけはございません。「新しい、麗しき日本のために、国民みんなが幸せになる国のために、この世の中でいま国際供給を本当に実現するために……」、そう書くに決まっています。それが皆さんのうちに届きます。
 もちろんそれだけではみっともないから、改憲反対派の意見も載せてくれるそうです。賛成派と反対派を両方書くとか言っていました。でもお分かりでしょう? 協議会は改憲を美化したものをボーンと書いてしまう。端っこのほうに改憲賛成と反対とが等量でばらまかれたとしても、返ってくる改憲広報は圧倒的に改憲PR広報です。そんなもの見なくていい、見たくないと言うと、紙くずに捨てると思っても、それだけはダメなのです。捨ててごらんなさい。何が起きるか。

●シュミーレーションの(3)
        

テレビで国会議席に比例して政党広報が流れる
               ―改憲賛成派95%、反対派5%―
 
 

その次に60日から180日の期間で国民投票を行います。仮に60日といちばん短い時間で考えてみましょう。
 そうすると、テレビや新聞に政府がカネを出して、私たちの税金を使って衆議院選挙の政権放送とか、アレに近い宣伝物が出てきます。でも、これも国会議席に比例するのです。「これを勘案して……」と書いています。勘案するというのは、基本的に比例するということです。きちっと比例させますと、どのぐらいの時間があるか。
 例えば100分の政府提供のメディアでテレビ放送があるとします。そうしますと、改憲派の放送できる時間が95分です。共産党と社民党の放送できる時間は合計で5分です。だから、志位さんが「あー」と言って、福島さんが「うー」と言うと終わってしまうのです。これが連日やられるのです。新聞の無料広告も同じような比率で、95対5です。慌てて作りましたが、ちょっと面白いものを持ってきましたので見てください。
 これが有料ならば4千万を超えると言われる色つきの広告、全紙一面広告で4,700万かかります。皆さん、おカネがないでしょう。タダでやってくれるというのです。下のところに赤いマークがあります。つまり改憲賛成派がこのほかを全部とるのです。で、社民党と共産党の広告は、赤く四角で囲った5%の部分しかないのです。これがどんどん皆さんの自宅に新聞で流され、テレビはそうなのです。赤く塗ったのは特に他意があって、さっき澤地さんの話を聞いていて、いろんな色が要ると言ったから、これも何色かに塗り分ければよかったのですが、これが5%です。これでやられる。
 
●シュミーレーションの(4)

 

テレビなどマスコミのコマーシャルは規制せず。
私たちの税金と金で改憲デマ宣伝のシャワーを浴びせられる

 

でも、それで済むかと思ったら違うのです。それはテレビでのコマーシャルとか、ああいうのは全部、全くのフリーパスです。これはメディアの方にもっと詳しく教えてほしいのですが、コマーシャルで私が聞いた限りで言うと、例えば日本テレビ系列とか、全国ネットで50〜60本バーッと連日流すとすれば、だいたい5億から10億と言われている。だから60日間ぶち抜きに向こうがやろうと思えば、何百億というカネになるでしょうね。九条の会をどれだけ広げていても、小森さんに悪いけれども、億単位のカネを出せるほどおカネを持っているようにはとても思えない。
 つまり、マスコミは一切規制しませんよ、自由ですよと。マスコミに私たちの広告をなぜ載せないの? 載せます。でも、あなた方10億払えますかと言われる。これはやはりモノを決めるのは情報でしょう? マインドコントロールが起きるということです。このことについてコラムニストの天野さんはこう言っています。朝日新聞のコラム欄で「憲法改定について国民投票が行われるときに、改訂に賛成する側も反対する側も一定期間、コマーシャルは誰でも自由にやっていいということに両法案ともなっている。本当にそれでいいのか。憲法改定の賛否以前に僕は思ってしまう。もし、それでいいのならおカネをたくさん用意できる側が圧倒的に優位になるに決まっているからだ。コマーシャルの比率が1対2ぐらいならば、まだ表現の優劣がモノを言う。だが1対5とか、1対10なんてものになったら、これはもう勝負にならない。じゃんじゃん大量に流せば、表現の優劣を越えて、確実にマインドコントロールの作用が働き始めることになるだろう。憲法やビールや化粧品を売るのとはわけが違う。誰でも自由にと聞こえはいいが、憲法改定のような大問題について違憲コマーシャルが公平に行われるよう、きちんとした枠組みが必要だ」と、天野さんは今の状況だったら全部禁止しろと言っています。
 もし、禁止というのがおかしいというならば、完全に対等平等を補償しなければならないと言っている。イタリーはそうなっています。フランスなどでは有料広告禁止です。それが民主主義の常識です。でも、これが全くフリーパスです。

●シュミーレーションの(5)

公務員が改憲運動をすると2年以下の禁固刑、教育者は1年以下の禁固刑
 

最後、そんな中でも草の根から運動を起こそうと思って個別訪問で一生懸命に頑張ろうと思うと、国家公務員と地方公務員、教育者、私学の先生も含め、合計で450万とも500万とも言われているこの人たちは地位を利用して国民運動、国民投票運動、改憲に反対だと言って歩けば、それだけで国家公務員と地方公務員は2年以下の禁固、または30万の罰金です。それから、教育者は1年以下の禁固または30万円以下の罰金です。

 

憲法96条を生きながら殺す法案、いますぐ、反対の声を上げよう

 
私は一つひとつが重大な問題だということは、今までいろいろ活動された皆さんはご存じだと思いますが、いちばん言いたいのが、これが全部束にになって、私たちが憲法改正について発議を仕掛けられて、この国の憲法を守り抜くために私たちが本当に主権者として行動しようとするときに、これが国家が作った法律によって全部私たちに襲いかかってくるのだということなのです。私はどんな法律になっても、どんな体制になっても、最後の1票は私たちが持っているのですから、国民の中に改憲を絶対に許さないという圧倒的な多数派を作って闘いたいと思います。この法律が通ったら世も末だと言って、うちに帰って寝ている気持ちはありません。
 それはそうです。だからといって、これほど危険なものが今、国会にかかっているのに、声も上げないで、そのときになったら闘う。それは私は間違っているというふうに思います。このことはあまりひどいので、本当のことがバレたら、私は国会でこの法律を通すのは難しいと思います。自民党の(セガワ)さん、公明党の名前は忘れましたがどなたか、それから民主党のこの問題のベテランの枝野さん、共産党の笠井さん、社民党の辻元さん、こういう人たちが集まって弁護士会が主催いたパネルディスカッションに出ました。その中の議論をいちいち紹介できませんが、ひと言で言って、実に粗雑で、彼らの中では談合のために長い時間をかけて練り上げたと言うけれども、まともに国民の前に晒されて議論されたら、とてもじゃないけれど、通せるものではないということに確信を持ちました。今の議会のむちゃくちゃな議席比と、非民主的な運営を見ると、議会の中の論戦で食い止めること、少なくともそれに主に影響して食い止めることは不可能だと思います。国民が声を上げるしかない。あと1分で終わります。
 私は今このことだけしか時間がないから言いませんでしたが、これは私たちが単に不利だからやめてくれという話ではないと思います。日本国憲法96条は、主権者は国民であり、改憲するかしないかを決めるのは一人ひとりの国民だと言っています。国会の議席者を反映させるという仕組みは外国にもありません。国会議員全員がもし改憲の発議をしたところで、決めるか決めないかは私たちでしょう。そればらば、情報とか発言の機会とか運動とか、運動は自由でなければならないし、情報を得る手段は平等でなければならないし、発言が平等でなければならないです。国民の半数がギリギリ競り合って、半数を巡って、九条改憲賛成か反対かを競り合っているときに、なぜ私たちの税金で95%の改憲宣伝、デマ宣伝を浴びせかけられなければならないのでしょうか。
 私は彼らが今、考えている法律は、生きながらこの憲法の96条を、憲法を殺したいために、96条をまず切り離して、それ自身をも破壊するという違憲立法だと思います。
 これが私のダジャレじゃないですが、意見です。(拍手)


 

10月11日(水)に開かれたマスコミ関連九条の会のパネル討論会
だれが決める?憲法の行方」−メディアと改憲手続法を考える(パネラー:坂本修、小森陽一、桂敬一さん)から、坂本修弁護士の冒頭発言を抜粋したものです。(編集室)