仲築間卓蔵/元日本テレビプロデューサ−/連載「六日のあやめ 十日の菊」(42)一味違った年末年始番組の特徴/09/01/17


 

一味違った年末年始番組の特徴

 

仲築間卓蔵・元日本テレビプロデューサー

 

 年末から年始にかけては「お笑い」「バラティー」「スポーツ中継」が定番だが、この一か月のメディアの報道姿勢は、従来とは一味違っていた。

 

 その特徴は、第一に、非正規労働者大量解雇採用内定取り消し、中小企業の営業閉鎖・倒産など切実な問題を、ニュース番組を通じて、かなりの時間をとって報道していたことだ。

 

 その背景には、解雇された人たちによる労働組合結成が相次ぎ、会社側と交渉を重ねてきたこと。日本共産党の志位委員長などが、大企業の経営陣や経団連と直接交渉をおこなったこと。「年越し派遣村」の開設に多くのボランティアの人たちが参加したこと。それらの取り組みを通じて、「社会的な問題」として広く訴えることができたこと、などがある

 

 これら一連の出来事を、メディアは真正面から見据えて報道し続けたのだ。その結果は、厚労省が(短期間であっても)講堂を開放したり、東京都が廃校の体育館の活用に踏み切ったり、ハローワークが出張窓口を開設したりという成果を生んた。

 

 国と大企業が責任を放棄するなかで、少なくとも、年末年始を「どう生きようか」と悩んでいた人たちは(僅かであっても)勇気と元気を持つことができた。「運動」と「メディア」の連携の成果をこれほどまでに実感したことはない。

 

 第二の特徴は、『NHKスペシャル』“新春ガチンコトーク!世界はどこへ、そして日本は”(1日)と『サンデーモーニング』“アメリカの黄昏、世界の危機”(4日、TBS系)の特集番組。

 

 『Nスぺ』は、学者、評論家、財界代表など7人のコメンテーターを登場させていたが、見どころは竹中平蔵、金子勝の慶応対決だった。金子さんは「小泉構造改革の総括からはじめよう」と議論のきっかけをつくるが、竹中さんは、「構造改革は中途半端」「問題は、これからどうするかだ」と答えるばかり。「新自由主義の破綻」には逃げの一手。

 

 はからずも小泉構造改革の終焉を浮き彫りにしてくれた。『サンデー・・』は、「世界不況」を、根源に遡って解説した。コメンテーターの一人は「いずれ総選挙。貴重な一票を大事に使ってほしい」と結ぶ。時宜にかなった両番組に拍手である。

 

 一方で、日本列島に渦巻く怒りに「悪乗り」したドラマ番組が登場している。テレビ朝日系の『必殺仕事人』(1月4日)の復活である。テレビ欄の紹介では「世の中は不況、リストラ、偽装、詐欺・・・こいつだけは許せねえ! 晴らせない恨み晴らします!」とあった。

 

 内容は、薬の高騰に苦しむ江戸の老人たちのために、悪党商人や役人を次々に抹殺していくというもの。堂々たる「テロ」である。なんとも後味が悪い。一時期この番組は受け入れられていたようだが、時代によって受け取り方は違ってくる。

 

 元厚労省事務次官の連続殺傷事件があったばかりである。そこへ「気に入らないから殺す」というドラマが現われたのだから、参った参ったである。

 

 主水という役の藤田まことに「俺達みたいな稼業がまかり通るような世の中はよくねえ」と言わせたりしているが、これは制作側のエクスキューズか。視聴率がどうであれ、きっと批判の声が寄せられているのではなかろうか。

 

 『必殺・・』の2回目を見るのをやめて、同時間帯の『いじわるばあさん』(市原悦子 フジテレビ)を見ることにした。

いま 何が求められているか・・・、報道番組であれドラマであれ、制作する側の見識があらためて問われる一年になる。