築間卓蔵/元日本テレビプロデューサ−/連載「六日のあやめ 十日の菊」(39)「地上デジタル」移行に躍起 なぜ延期できないのか! 08/08/07

 

 

「地上デジタル」移行に躍起 なぜ延期できないのか!

 

 7月24日から、テレビ画面の右上に「アナログ」という文字が表示され、NHKは「2011年7月24日までに地上デジタル放送に移行します」と宣伝を強めている。販売店は、アナログ用受像機に「このテレビは2011年7月24日からは見られません」という趣旨のシールを貼って注意を促している。これは、政府の諮問機関・情報通信審議会が6月にまとめた第5次中間答申(これからの3年間を「仕上げの段階」と位置付けて、国民の「協力」を強調している)を受けてのものである。地デジ計画を推進してきた総務省、放送業界、電機メーカーの「焦り」を感じる。

 

 地デジへの移行は、小泉内閣による電波法「改正」(01年2月)で決められた。日本共産党は当時、「デジタル放送が受信できない地域があったり、受像機が十分に普及していないことが見込まれたりするときは、計画の変更や必要な措置を講じる」という修正案を出したが、民主党を含む多数によって否決されたという経緯がある。メディアは、小泉パフォーマンスに煽られて、デジタル問題に興味を示さなかった。

 

 アナログとデジタルはどのように違うのか。技術音痴のぼくには上手く説明できないが、「電子信号の送り方の違い」らしい。連続性のある信号と、0と1で組み立てられた信号の違いである。時計でいえば、ねじ巻時計とデジタル時計の違いか。レコードでいえば、針で聴くレコードかCDかの違いか。「アナログ人間」という評し方がある。「なんとなく人間的」とでもいうのだろうか。「いい加減な人間」とか「きっちりしていない」という意味で使われることもあるようだが、それが正しいかどうかはわからない。すくなくとも「アナログ」=「古い」という表現は当たらない。そんな説明で了解してほしい。

 

 では、なぜアナログからデジタルなのか。テレビの初期は「白黒テレビ」だった。技術の進歩で「カラーテレビ」に変わった。が、いまも「白黒テレビ」で見ている人がいるだろう。「白黒テレビ」でも放送は享受できるのだ。しかし、デジタルではそうはいかない。これが、いままでの技術の進歩と違うところなのだ。「デジタル」という新しい方式に変えて、「新しい商品」を買わせようというのだ。

 

 技術の進歩は結構なことである。産業革命時、「機械が人間に替わる」というので「機械打ち壊し」運動みたいなことがあった。「打ち壊し」はよくない。機械が働く分、人間が人間らしく、豊に生きることができれば、まさに「進歩」だが、そうはいかなかった。労働条件にハネ返った。そこが問題である。テレビのデジタル化も「双方向」とかで(高齢者には扱いにくいが)「便利になる」らしい。そんな「進歩」を止めるなどといっているわけではない。みんなが買い替えなければならないのが問題なのだ。

 

 現状はどうか、40%の人が2011年に移行することさえ知らない。家庭用テレビは1億台以上あるが、デジタル機の普及は3,600万台だという。今後3年間で6,400万台を販売しなければならない。国民生活が追いつめられているとき、買い換える人がいるのだろうか。生活保護世帯に簡易チューナーなどの補助をするというが、高齢者や障害者など生活保護水準に達しない人たちはどうするのか。山間地域や集合住宅などの難視聴問題をどうするのか。策は示されていない。

 

 03年を「デジタル元年」と位置付けてデジタル放送は開始された。鳴り物入りでスタートした計画は、210兆円の経済効果があるといわれた。が、デジタルのための設備投資に苦しんでいる地方局は多い。問題山積なのに、地デジへの「仕上げの段階」だという。「振り上げた拳」の下し場所を探せないのだろう。

 

 予定通り地デジに移行できなければ、どんな影響があるのだろう。受像機の買い替えを目論んでいた電機メーカーは痛手だろう。完全移行できなくなれば、テレビ局は現在のまま(アナログ方式とデジタル方式を併用して放送)ということになる。それに伴う「損失」は(NHK、民放を含めて)2年で1,000億円という試算がある。

 

 放送は本来、「全国あまねく視聴」されなければならない。視聴できない人が多いことこそ問題である。視聴する人が少なくなれば、広告料が30%(テレビの年間広告費は2兆円といわれているから、600億円ということになる)減るという試算もあるから、テレビ局も無理に急ぐことはないはずである。

 

 にもかかわらず、「何がなんでも2011年には移行する」という姿勢は、「後期高齢者医療制度」をあきらめないのとそっくりである。すべての地域で視聴できるようになり、ほとんどの国民が受像機を買い替えることができるまで、地デジ完全移行は延期すべきだろう。「後期高齢者」問題の追及は評価されるものだが、いざデジタル化のこととなると「モノ」を言えない。こんなところにも、テレビの側と視聴者の「溝」の深さを感じてしまう。