仲築間卓蔵/元日本テレビプロデューサ−/連載「六日のあやめ 十日の菊」(36)/ 08/06/11
8日昼、東京・秋葉原の歩行者天国は悲惨だった。7人が死亡し、10人が重軽傷を負った。現行犯で逮捕された男は静岡に住む25歳の派遣社員だった。

メディアは、現場中継からはじまり、被害者遺族、友人の“やり場”のない怒りを伝えた。当然のことである。その後、男が携帯サイトに予告の書き込みをしていたことや、ナイフの入手経路、職場のことを詳細に報道した。おもえば、7年前のこの日、大阪の池田小学校で児童8人の命が奪われている。
福田首相は翌日、事件の「社会的背景を調査するよう」国家公安委員長に命じている。どのような報告になるのだろうか。「キレやすい若者が増えている」というのだろうか。「キレやすい若者を事前に察知して、対策を講じる」とでもするのだろうか。この際、「道徳教育の推進」の必要を説くことになるのだろうか・・・。福田首相の頭の中に、格差社会のなかの「派遣労働者」の実態調査という考え方があるのだろうか。
報道によれば、彼が派遣されていた関東自動車工業(トヨタグループ)東富士工場では今月末から来月末にかけて(派遣社員を200人から50人にする)リストラ計画が示されていたという。彼は対象外だったようだが、そのことは知らない。「仕事場に行ったらツナギが無かった。辞めろってか、わかったよ」という書き込みがあった。「服がない」と大声で叫び、そのまま退社している(東京新聞)。いみじくも「派遣労働者」の不安さが出ている。福田首相の頭の中に「派遣問題を考え直さなければ」という発想があったとしたら、たいしたものだが・・・。
今回の事件をきっかけに「派遣労働者問題を取り上げてほしい」とテレビ局に電話してみた。NHKは「視聴者コールセンター」が出る。(家から電話したら「おかけになった電話には、お客さまからの電話はおつなぎできません」という。受信料不払い中だとつながらないらしい。だから携帯でかけた)。
『その時歴史は動いた』“我が言は万人の声”の資料がほしいと電話した時は番組資料を送ってもらって感謝したものだが、あれは03年5月だった。その後、ブラックリストでもできているのだろう。
日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ東京は「視聴者センター」、テレビ朝日は「視聴者窓口」である。一様に「わたしどもの方から担当者に伝える」という返事である。予想していたとはいえ、素気ないものである。『一秒の世界』という番組のなかで世界の軍事費をとり上げていたことに感動してTBSに電話したときは、わざわざ担当者から電話をもらったことがあるが、いまやそんなコミュニケーションが図れる仕組みにはなっていない。
ぼくは機会あるごとに「番組について評価したり意見を言ってほしい」と言い続けているが、こんな対応では視聴者もがっくりだろう。しかし、窓口は少なくともあるのだから、やはり言い続けなければなるまい。
ある局は、活字メディアからの取材に対してもルールをつくっている。「すべて総合広報部が見解をまとめる。個人的に勝手にしゃべってはならない」という。テレビの現場に、いまや「自由闊達さ」はなくなっているようだ。開かれたテレビ局になりたいと思うのであれば、視聴者との「塀」、他メディアとの「塀」をいかに低くするかだろう。
11日の『スーパーモーニング』(テレビ朝日)で、鳥越俊太郎さんが「今回の事件のキーワードは“派遣労働者“だ」という趣旨の発言をしていた。突っ込んだ議論にはならなかったが、この「視点」を広げてほしいものだ。