仲築間卓蔵/元日本テレビプロデューサ-/連載「六日のあやめ 十日の菊」(114)

佐竹直子記者(北海道新聞釧路報道部)に絶大なエール 15/08/19

仲築間卓蔵 (元日本テレビプロデューサー)

8月15日。日本ジャーナリスト会議JCJ)の「8月集会」。
昔は、曜日を問わず8月15日におこなっていたものだが、近年、参加者が少なくなってきたことから15日前後の土曜日となっていた。ことしは、たまたま土曜日となった。
「8月集会」の目玉は、この一年の優れた記事・番組・出版などを顕彰する「JCJ賞」贈賞と記念講演。昨年の講演は、NHK問題が急浮上したことをうけてNHK出身の小中陽太郎氏だったが、ことしは岸井成格氏。
ことしの参加者は近来になく大勢になるだろうと思っていたが、そのとおり超満員。政治の劣化、メディアの劣化を憂う状況がそうさせたのか、『NEWS23』のアンカーであり『サンデーモーニング』のコメンテーター(いづれもTBS系)の岸井成格氏の講演がそうさせたのか・・・・。

いつものことだが、ぼくのたのしみは受賞者が語る(率直な)受賞のことばである。
5番目に演壇に立ったのが北海道新聞釧路支局の佐竹直子さん。
「ありがとうございますッ」といったのか「やったぁ」といったのか。はっきり聞きとれなかったが、拳を突き上げて受賞のよろこびを表現した。こんなシーンははじめてである。いっしょに「おめでとう!」と拳を突き上げればよかったが、拍手だけになってしまった。

受賞記事は「獄中メモは問う 北海道綴方教育連盟事件」である。
JCJの贈賞理由には「太平洋戦争突入前の1940年から翌年にかけ 道内55人の教員が治安維持法違反容疑で特高に逮捕された北海道綴方教育連盟事件。事件発生から約70年余の2013年、佐竹記者は教員の一人の”獄中メモ”を発見したのを機に、生き証人や家族、関係者を徹底取材。“言論と教育への弾圧”の理不尽と非人間性に迫った。戦争法制強行と連動した教育への国家介入が強まる現代との相似性からも高く評価できる力作だ」とある。

彼女は言う 「戦時下に記された“獄中メモ”がこのタイミングで私の前に現れたことを、偶然とは思えない。現代を生きる私たちに、何かを問いかけているのではないか」「戦後70年。そして綴方事件発生から75年となる今年に、この連載がJCJ賞を受賞したことが、悔恨すべき過去が繰り返されないための警鐘となることを 強く願います」「JCJ賞は わたしの背中を押してくれた」と再度拳を突き上げた。大きな拍手が湧いたのはいうまでもない。

彼女は、北海道新聞釧路支局の記者だが正社員ではない。関連会社からの派遣記者である。
いま、地方紙から「派遣記者」が進んでいると聞く。この流れが大手紙に波及するのも時間の問題かもしれない。「派遣」であれば、その身分は不安定極まりない。メディアの「劣化」がいわれているが、権力に都合が悪いことを報道すればするほど、彼女たちの身分はさらに不安定になるであろうことは容易に想像がつく。権力の意向を気にする傾向が強まっているいま、メディア側の体制の「劣化」が、こころある記者を排除することになるであろうことも想像できる。

佐竹さんのことで評価したいのは、彼女の感性と努力はもちろんだが、この連載を支持した人たち(読者とデスク関係者)である。
記者とデスクと読者の一体感が、記者の背中を押すことになる。
連載を後押ししたデスク氏の話しも聞きたかったが、ムリだったのだろう。
北海道新聞労働組合の評価も聞きたいところである。

最後に、この連載に目をつけ、JCJ賞に推薦した人にも敬意を払いたい。地方紙の、そのまた地方支局の連載に目をつけたことがすばらしい。
JCJ賞の役割をあらためて認識した。「JCJ賞」も捨てたものではない。

その他の受賞に触れたいが、この稿では佐竹直子記者へのエールだけにしておくことにしよう。


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