仲築間卓蔵/元日本テレビプロデューサ-/連載「六日のあやめ 十日の菊」(101)

オリンピックは東京で大丈夫なの? 13/09/11

仲築間卓蔵 (元日本テレビプロデューサー)

 オリンピック、パラリンピックはバルセロナで決まりと思っていましたよ。
 トルコは「政情不安」のようだし、日本は原発事故は収束していない。収束していないどころか汚染水は拡大する一方。今後の展望もないところにオリンピックをもってくるなんて・・・IOC委員が決めるわけがないと思っていたのです。

  メディアの騒ぎ方は尋常ではありませんでしたよ。東京オリンピックに異を唱える者は「非国民」と言われかねない状況だったのではないですかね。
  TOKYOと決まったときのブエノスアイレスのホテルの祝賀会場の興奮ぶり、駒沢体育館・東京商工会議所・渋谷の街頭で結果を見守っていた人々の興奮ぶり、新聞の号外、東京タワーなどいくつかの東京名所には「2020」の文字がライトアップされました。
 「早朝の列島に歓喜”夢みたい”」(9日、テレビ朝日系『モーニングバード』)のタイトルは、その興奮状態を端的に表していましたね。

  その興奮状態を「違和感」をもって見た人も少なくないでしょう。
 東京決定のカギは最後のプレゼンだったようです。
 海外のメディアからの「(汚染水問題が)東京に影響がないと言ったことは信じるが、どうしてそれが言えるのか」という質問に、安倍首相はこう答えたのです。「汚染水による影響は福島第一原発の港湾内の0.3平方キロの範囲内で完全にブロックされている」「日本は食品や水の安全基準は世界で最も厳しい基準。健康問題については今までも現在も、将来もまったく問題ないと約束します」。
 それを聞いた福島の漁業関係者は「どこまで把握してあのような発言になったのか」と。
 仮設住宅での生活を余儀なくさせられている人たちの声は、「安倍さんは調子いいな」「世界にあんなアピールしていいのか」です。各国のアスリートはどのように受けとめているのでしょうかね。

  ぼくには、東京に決まった「9月8日」と、太平洋戦争に突入した「12月8日」がダブって見えた。ぼくの子どもの頃は、「(戦争のために)欲しがりません勝つまでは」「贅沢は敵だ」と教え込まれてきた。今度は、オリンピック成功のためには「少々の我慢はしてもらわなければ・・・」という風潮になりそうな予感を覚えたのです。
 東京は3兆円の経済効果があるといいます。施設やインフラ整備に1兆3500億かかるそうです。日本全体の経済効果は計り知れないという人もいます。本当にそうなのですかね。9日の『サンデーモーニング』(TBS系)で、張本勲さんが言っていた。「一部の人だけいい思いをするのはやめてもらいたいね」と。

  IOC委員の一人の感想は、「重大な懸念について(安倍首相が)信頼できる答えをしてくれた」でした。IOCは「原発事故」より「(日本の)経済基盤」を優先したことになります。
 オリンピックの興奮の陰で、福島は見捨てられていくのではなかろうか・・。「消費税増税は仕方がない」と押しつけられるのではないか・・。「集団的自衛権」も「オスプレイの訓練」も「TPP」も・・・オリンピック騒ぎの陰で強行されかねない。いつも犠牲になるのは国民という「犠牲のシステム」が、ここから始まるような予感です。
 メディアが、オリンピック騒ぎにかこつけた「世紀の目くらまし」の役割をまたまたしそうな気がする。オリンピックを成功させるためには、何を置いても(世界の英知と費用を集めて)「汚染水問題」を解決すべきだ。「原発即時ゼロの決断」を、いますぐすべきだ。それが世界に対する「礼儀」というものでしょう。それが無理なら、オリンピック「返上」という選択肢も残っている。

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